【執筆ノート】
『名画で学ぶ世界史──ルネサンスから20世紀美術まで』
2025/05/27
美術ライターとして、私はこれまでに70本以上の展覧会を取材し、それらについての記事や、画家や作品に関するコラム記事を「verde」の筆名で「ウェブ版美術手帖」などのウェブサイトを中心に書いてきた。
執筆にあたっては、作品と向き合い観察し、その内容やテーマについて学ぶだけではなく、作品の生まれた背景をはじめとする周辺状況についてもできる限り詳細な情報を集めるように努めてきた。
なぜ、そしてどのような状況のもとで、この作品が描かれたのか。なぜ、このテーマが選ばれたのか。誰が選んだのか。
いくつもの問いを設定し、その答えを探っていくことで、作品や作者について、より理解を深めていくことができる。
本書は、私がライターとして出した4冊目の本であり、初めての単著となる。本書では、ルネサンスから20世紀までの約600年間に焦点をあて、「ルネサンス」「バロック」などの西洋美術史のキーワードを同時代の歴史的事項と組み合わせながら紹介していくことで、各時代を代表する名画や作品が生まれた背景を立体的に浮かび上がらせることが狙いだ。
なぜ、ルネサンスはイタリアから始まったのか。なぜ、フランスはイタリアに代わる美術の中心となったのか。なぜ、アメリカにはメトロポリタンをはじめ、質・量共にヨーロッパの美術館にも引けをとらない良質な美術館が多数存在しているのか。
それらの答えは本書の頁をめくる中で見出せよう。
歴史の流れを辿る中で浮かび上がるのは、今も昔も変わらない人間の姿だ。名誉や金を求めて力をふるう。その欲に終わりは見えない。そんな人間たちにとって、美術とは時に自身の権威や名声を形にして残すためのツールであり、時に生活を彩るものであり、ビジネスの対象となるものでもある。だからこそ、世界の覇権を握る国こそが、美術の中心地ともなる。が、「盛者必衰」の言葉が表すように、どんなに力がある存在でも必ず衰える時が来る。その中でも残る美術作品は、歴史を語る証言者と言えるかもしれない。
『名画で学ぶ世界史──ルネサンスから20世紀美術まで』
竹内 麻里子
成美堂出版
192頁、1,760円(税込)
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
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竹内 麻里子(たけうち まりこ)
美術・歴史ライター・塾員