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【執筆ノート】
『スマートシティとキノコとブッダ──人間中心「ではない」デザインの思考法』

2025/03/25

  • 中西 泰人(共著)(なかにし やすと)

    慶應義塾大学環境情報学部教授

思考を拡張する「道具」であるコンピュータは、人と会話するAIや身体を持つロボットのように「他者」として共生する存在になりつつあります。さらには人間とは異なる知性や身体を持つ「他種」としても存在していくことでしょう。人間は熊や狼を駆逐しながらも犬や馬を飼い慣らし、他種との境界を更新してきました。これからの歴史では、AIやロボットという新たな「他者」や「他種」との境界が更新されていくはずです。

では、そうした他者や他種と暮らす「スマートシティ」と呼ばれる新たな人工環境は、どのようにデザインされ、人々にどのように生きられるでしょうか? 単なる便利さを超え、人々の知性や徳を高めてくれるものになるでしょうか? ひいては、私たちはそこでどのような知性を発揮すべきでしょうか?

本書では、こうした問いを立てるにあたり、文明的な都市に生きる私たちの合理的・計画的な知性を相対化するため、「人類とは異なる知性の象徴としてのキノコ(菌類)」と「人類を超越した知性の象徴としてのブッダ」を召喚し、私たちの世界を捉え直そうとしました。さまざまな分野の方々との対話を軸に、そこから気づいた「今ここ、目の前にあるモノやコトの価値を新たに見出し(発見的)」「その価値を別のところへ結びつけ、さらなる価値を生み出す(開眼的)」という東洋・日本的な知のあり方としての「無分別智」の重要性を説き、それが発揮された事例や体得のための練習問題を提示しています。

私が東洋的・日本的な創造性に着目した契機は、福澤基金をいただいてスタンフォード大学に滞在し、シリコンバレーの世界に触れたことでした。テクノロジーが社会に受容される過程には、それぞれの文化や世界観が反映されます。AIやロボットと共生する世界が作り出される過程に東洋的・日本的な思考はどう反映されていくのか。その問いにヒントをくれたのが、キノコとブッダでした。タイトルが「謎」と言われることも多いのですが、その謎があなたの想像力を刺激したなら、発見的で開眼的な創造性を体得する入り口に立っているのかもしれません。

『スマートシティとキノコとブッダ──人間中心「ではない」デザインの思考法』
中西 泰人(共著)
ビー・エヌ・エヌ
360頁、2,750円〈税込〉

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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