【執筆ノート】
『グローバル感染症の行方──分断が進む世界で重層化するヘルス・ガバナンス』
2025/01/24
筆者は地球規模での感染症管理について、国際政治の視点から研究を続けてきました。そのような中で、前著『人類と病─国際政治から見る感染症と健康格差』(中公新書、2020年)の刊行は思いがけず、世紀のパンデミックと重なりました。その後、パンデミックの脅威に慄きつつも、日々、研究対象について直に触れながら過ごす日々を送り、また2023年3月からは1年間、フランスで共同研究者たちと共に研究する機会に恵まれました。パンデミックを克服し、新たなステージに移行しつつある今、この数年間の研究をまとめて公表する必要性を認識し、2024年10月に本書を刊行しました。
現在、国際社会では複数の戦争を抱え、政治的な分断は深まる一方ですが、そのようなことはお構いなしに、突然始まり、国境を超えて広がるのが感染症というものです。気候変動や都市化など非医学的な理由で様々な新興・再興感染症が流行し、その脅威に直面する現在において、感染症は言葉通り、グローバルな性格を強めています。そのため、各国の感染症対応は戦略的・政治的なものにならざるを得ません。
国境を超える感染症には地球規模での協力が必要ですが、以上のような政治的分断の深まり、感染症対応の政治化を背景として、地球規模での協力枠組みは混乱を極めています。それでも感染症対応を自給自足できる国は存在しない中、何らかの形で我々は協力の方法を探らねばなりません。本書では、そのジレンマを地域や有志国間など、より小さな単位での協力、また組織的なイノベーションに焦点を当てて検討しました。また日本の役割についても論じました。総じて本書では、政治的分断が深刻化する国際社会で、今後、いかに地球規模の課題としての感染症管理に取り組んでいけば良いのかという課題を、多角的な視点で論じています。
2025年1月には米国でトランプ第2次政権が発足し、地球規模での国際協力は、ますます困難に直面すると予想されます。そのような中で、「次」にいかに備えるべきか、現実的に考える手がかりを提供できれば幸いです。
『グローバル感染症の行方──分断が進む世界で重層化するヘルス・ガバナンス』
詫摩 佳代
明石書店
244頁、2,970円〈税込〉
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
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詫摩 佳代(たくま かよ)
慶應義塾大学法学部教授