【執筆ノート】
『広葉樹の国フランス──「適地適木」から自然林業へ』
2024/09/06
きっかけは素朴な「発見」だった。
まずフランスは、長い時間をかけて緑をよみがえらせてきた森林国である。次にその方法は、モザイク状の多様な地形に見合った「適地適木」の伝統にもとづく。またそれを受け継ぎ、発展させてきた人物たちの歩みには、歴史小説を凌ぐほどのドラマがある。
この気づきを実地に検証しようと私が渡仏したのは、もう30年近くも前になる。政府開発援助の専門誌を退職し、パリ大学の修士課程に留学してフランスの生態系や森林経営システムと向き合った。
幸いにも、自然や人との多くの出逢いに導かれるようにして、現地でのすべての考察をフランス語の論文にまとめることができたのは、パリで3度目の夏を終える頃だった。
あれから今日までに、フランスは国土の4分の1だった森林率を3分の1に増やした。20世紀最悪のサイクロン被害からも復興した。さらに国際的な気候変動対策もリードしながら、地方分権改革路線に沿った林業転換を推し進めている。
じつに長いブランクだったが、その間の進展もふくめて日本語の読み物として書き下ろすには、むしろ最適なタイミングになったと感じる。
それがこの新刊である。フランスの森や林業というテーマは、書籍としては意外にも日本初となった。
全体は3編の構成。ガリア以来の森林生態系と林業、「複層林」や「照査法」といった独自技術を生かした森林再生史、フランス林学の導入期を含む日仏森林・林業比較である。
そしてこの3編に共通のキーワードとして、フランス国土の7割を占める平地から生まれた「広葉樹林業」がある。いまや林業界は一種の広葉樹ブームだが、フランスの林業方式は明らかにそのさきがけといえる。
だが多くの人がイメージするような、エレガントで威風堂々たるフランスの姿はここにはない。むしろ日の当たらない隘路で右往左往し、自然とは何かを愚直に問い続けてきた「雑木魂(ぞうきだましい)」にこそ重点を置いた。
誰も語らなかった森林立国フランス。蘇る自然植生。今後はこうした現実も踏まえ、西欧の近現代を森林史観からたどり直せば、また新しい「発見」がありそうだ。
『広葉樹の国フランス──「適地適木」から自然林業へ』
門脇 仁
築地書館
304頁、2,640円(税込)
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
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門脇 仁(かどわき ひとし)
著作家・塾員