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【執筆ノート】
『民主主義は甦るのか?──歴史から考えるポピュリズム』

2024/07/23

  • 細谷 雄一(共編著)(ほそや ゆういち)

    慶應義塾大学法学部教授

近年、民主主義の衰退が繰り返し語られている。たとえば昨年の米人権団体フリーダムハウスの報告によれば17年連続民主主義が「悪化」しているという。また、関連した書籍も数多く刊行されている。代表的なものではハーバード大学教授のスティーブン・レビツキーとダニエル・ジブラットの共著『民主主義の死に方──二極化する政治が招く独裁への道』(濱野大道訳、新潮社、2018年)や、ケンブリッジ大学教授のデイヴィッド・ランシマンの『民主主義の壊れ方──クーデタ・大惨事・テクノロジー』(若林茂樹訳、白水社、2020年)など、国内でも読める優れた研究である。

そのような政治学者によるいくつかの代表的なアプローチとは異なるかたちで、本書は民主主義の衰退を論じている。本書は、2020年2月から23年2月まで、東京財団政策研究所で行ったポピュリズム国際歴史比較研究会での議論の成果である。コロナ禍の中で、民主主義の衰退という問題、そして権威主義の拡大という問題がよりいっそう顕著なものとなって迫ってきた。民主主義の衰退という問題は、深刻化することはあっても、改善する兆候はなかなか見られなかったのである。

本書の第1部においてわれわれが注目したのは、戦間期ヨーロッパ、とりわけ1930年代に欧州諸国でどのように民主主義の衰退、そして崩壊が見られたかを、いくつかの国の事例を取りあげて論じることであった。そして、第2部の各章では戦間期の日本では、民主主義がどのように育まれ、危機に直面し、そして崩壊していったのかを検討している。さらには第3部で、それらの歴史的教訓を基礎として、現代における民主主義の危機を多角的に論じている。

現代、われわれが直面する危機を、絶対的なもの、不可避なもの、そして唯一のものであるとみなすのではなく、さまざまなかたちでこれまでも危機が見られ、そして克服されてきたことを知ることは、重要な知的営みであろう。中堅および若手の政治史、政治学の専門家が集まってそれを検討した本書が広く読まれ、われわれが乗り越えるべき危機の本質をより深く理解する契機となることを願っている。

『民主主義は甦るのか?──歴史から考えるポピュリズム』
細谷 雄一(共編著)
慶應義塾大学出版会
298頁、2,200円(税込)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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