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【執筆ノート】
『すぐ忘れる日本人の精神構造史──民俗学の視点から日本を解剖』

2024/05/24

  • 新谷 尚紀(しんたに たかのり)

    国立総合研究大学院大学・国立歴史民俗博物館名誉教授

日本がおかしい。

きっかけは2021年12月にインタビューをされたことでした(2022年1月26日付「日本経済新聞」掲載)。日本がおかしい、経済も停滞、政治も混迷、“第二の敗戦と見る向きもある、という問いかけに民俗学はどう答えるのか。

そのインタビューのあとで、さくら舎の若手編集者、中越咲子さんからのお声がけで執筆したのが本書です。要点は、現在の日本の政治と経済の混迷には原因がある、それを確かめることなく日々の流れの中の話題を提供するだけのマスコミに左右されている人たちがいまの日本には多い、それがこの国と社会を根幹から危うくさせている。日本人はなぜこのような思考や行動のクセがあるのか、その原因を歴史の中の民俗学の視点から明らかにする。具体的な対策としては資源の少ない日本ががんばっていくには学校教育の充実、地域ごとの人材の育成がいちばん! 詭弁にだまされない人間が一人でもふえること! それが結論でした。

2011年に「近現代日本の40年周期説」(国立歴史民俗博物館『歴博』no.196)というコラムを書いていました。日本の近現代史は繁栄と破綻の40年ごとの繰り返しの中にある、分水嶺は20年目。

1868年の明治維新は財政破綻と不平等条約の中、1908年が日露戦争勝利の後、1948年は原爆と敗戦の地獄の頃、1988年はバブル経済絶頂期、そして2028年は悲惨な日本? 破滅は父祖の世代の知恵と苦労を忘れた世代が世襲ボケや自己顕示欲ボケの中で、公的に行使されるべき権限を私利私欲の仲間内の利権で国を導くからです。分水嶺にあった2008年、自公と民主と官僚という三つ巴の構図の中の利害関係の権謀術数の渦中に日本はありました。

このままでは日本が危ない。そう思って心配していたその危機が、いま現実化してきている人生を歩んでいる75歳の老人がこの私です。2028年以降のV字回復の可能性をまだまだ考えていきたいと思って、この本は書きました。柳田國男と折口信夫の民俗学、民族伝承学から学んだ1冊です。

『すぐ忘れる日本人の精神構造史──民俗学の視点から日本を解剖』
新谷尚紀
さくら舎
292頁、1,980円(税込)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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