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【執筆ノート】
『思考の方法学』

2024/02/28

  • 栗田 治(くりた おさむ)

    慶應義塾大学理工学部管理工学科教授

私たちの仕事や日常生活の場、そして学問・研究の場には、目的に応じて方針を合理的に決定すべき課題が山積しています。その解決を支える「モデル思考」を認識(再認識?)し役立てましょう、そうした思いで本書を執筆しました。モデルとは、対象とする課題の主たる要素を部品として取り出し、部品同士の時間的前後関係や因果関係を記述したシステムであり、文系・理系を問わず活用できる重要なツールです。

筆者は筑波大学の社会工学類で都市計画を学び、東大の都市工学科で助手をしているときに慶應理工の管理工学科に迎えていただきました。

都市計画は都市・建築空間と制度の設計を目的合理的に行うものであり、筆者の学問的基盤は元来、これに応用数理的に接近するためのオペレーションズ・リサーチでした。そして管理工学科に来てみると、人・もの・お金・情報を取り巻く意思決定のための学問に網羅的に光を当てる、実に魅力的な研究・教育が実践されていて感動したのです。この文化を学びつつ自らの都市研究を発展させる、ワクワクする30年余りを慶應で過ごしました。本書はその成果です。

モデルの様々な類型、モデル分析を発展させる“らせん的展開”の解説に加え、それを支える重要な工学的概念であるパレート最適、正味現在価値法、埋没費用を取り上げました。加えて社会学からも伝統主義とフェティシズム、官僚制の順機能と逆機能といった、目的そのものを正しく設定するための重要な概念を紹介しました。文理の境界を超えて学ぶことが豊かな思考をもたらすことをお伝えしたかったのです。

その際、敏腕編集者の井本麻紀さん(講談社)からの「数式を用いず、一般読者に魅力を伝える内容にしましょう」という提案に忠実に従いました。交通流・都市施設計画・人口予測等々のモデルを題材としました。八百屋お七の伝説が昭和の合計特殊出生率を減少させた逸話を発端とし、十干十二支の来歴も詳述しました。

とっつきやすく物語性をもった内容を読み進むと、結果としてモデル思考の要諦が理解できる……そのような新書を目指したのです。それがどこまで上手く達成できたかは、読者の皆様の評価にお任せ致します。

『思考の方法学』
栗田 治
講談社現代新書
280頁、1,100円(税込)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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