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【執筆ノート】
『免疫「超」入門──「がん」「老化」「脳」のカギも握る、すごいシステム』

2024/02/20

  • 吉村 昭彦(よしむら あきひこ)

    慶應義塾大学医学部教授

「免疫」という言葉はここ数年で急速にポピュラーになった。電車の広告では「免疫力を上げるサプリ」などがよく目に付くし、チコちゃんの「全国統一 免疫対策テスト」なるものが放映されていたりする。なぜ急に日本人は「免疫」に興味を持ち出したのか? 当然ながら新型コロナ感染症が強い影響を与えたものと思われる。ワクチンへの関心も高く、その効果とともに強い副反応も話題になった。

免疫とは読んで字のごとく「疫から免れる」つまり感染症に対抗する我々の体のシステムである。こんなありがたい防御システムは強ければ強いほど良いと考えがちである。確かに現在、北里柴三郎が発見した抗体は治療薬として様々な疾患に使われているし、がんの免疫療法では2018年に本庶佑教授がノーベル賞を受賞している。ワクチンはコロナ禍を収束させる切り札として、感染症の専門家や医師は「どんどん打て」と3カ月おきに5回も6回も打つように勧めていた。しかし彼らは免疫学を学んだのか? と疑問に思う。医学部の学生実習ではマウスを免疫して抗体を作らせると、条件によってはアナフィラキシーショックを起こして死亡することを身をもって体験してもらっている。医師国家試験では多様な免疫疾患が必ず問われる。つまり免疫には光と影の部分があり、精密で絶妙なアクセルとブレーキのバランスの上に成り立っている。

この本を書こうと思ったのは、「免疫」のすごさと今後の発展の可能性を多くの人に伝えたい気持ちと同時に、正しい免疫学の理解を反映していない情報が多く流布されている現状に危機感を抱いたからだ。正確な知識をなるべく広く、特に若い人たちに知ってもらいたい。そして自分の頭で考えて判断する材料にして欲しい、という思いで書き進めた。

入門書なのでできるだけわかりやすく書いたつもりだが、一方で免疫の重要な原理については曖昧にならないように正面から解説した。そのために読み切るにはある程度の生物学の基礎知識を必要とするだろう。「超」入門と銘打っているが「超」易しい入門書ではない。入門を「超」える書と捉えていただければありがたい。

『免疫「超」入門──「がん」「老化」「脳」のカギも握る、すごいシステム』
吉村 昭彦
講談社ブルーバックス
240頁、1,100円〈税込〉

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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