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【執筆ノート】
『日本女性のライフコース──平成・令和期の「変化」と「不変」』

2024/02/16

  • 樋口 美雄(共編)(ひぐち よしお)

    慶應義塾大学名誉教授

女性の暮らし方、働き方は平成から令和にかけどう変わったのか。本書は、無作為に抽出された1,500人の女性とその後追加された若い世代の女性を約30年間にわたって定点観察した「消費生活に関するパネル調査」に基づき分析をしている。結婚や出産、就業やキャリア形成、家事育児ケアや夫婦間のパワーバランス、資産形成や消費構造、賃金、所得格差の何が変わり、何が変わってないのか。そして変化した背景にどのような経済・社会要因、意識の変化、政策効果があり、どのような課題があるのかを明らかにする。

かつて日本では他の先進国と違って、大卒女性の就業率は必ずしも高くはなかった。だが、その後女性の就業率は全般的に上昇し、特に平成になると高学歴女性で働く人の数が増え、高卒女性の就業率を上回るようになった。

中身を見ると、高卒では結婚や出産を機に仕事を一度やめ、その後、夫の所得の停滞もあり、再び働きだす人が増えた。だが、その多くはパートや非正規労働者だった。これに比べ、大卒では育児休業制度が普及しこれを利用して、正社員として仕事を続ける人が急増した。さらに欧米ほどではないが、キャリアを活かす人も増えた。こうした動きは産業・職業構造の高度化ともマッチしていたが、一方で個人の所得格差以上に、世帯単位の格差を拡大させた。

他方、結婚や出産についても、最初のころは所得の低い層で早く結婚する人が多かったが、近年逆にこの層で晩婚化・非婚化・少子化が一層進んでいる。

変化していないのは夫の家事育児時間である。若い世代では家事育児を行う男性も増えたが、依然としてこれに費やす時間は短く、その多くが女性に任されており、性別役割分業意識は未だに強く残っている。

本書は世代や教育、学歴、雇用形態に焦点を当て、日本女性のライフコースの多様化を定量的に分析している。こうしたことができたのも、約30年にわたって実施し続けたパネルデータに負うところが大きい。この種の分析に長期のパネルデータの活用が有効であることを読者に感じてもらえるならば、本書の1つの目的は達成されたと言えよう。

『日本女性のライフコース──平成・令和期の「変化」と「不変」』
樋口 美雄(共編)
慶應義塾大学出版会
280頁、2,420円〈税込〉

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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