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【執筆ノート】
『脱優等生のススメ』

2023/12/27

  • 冨田 勝(とみた まさる)

    慶應義塾大学名誉教授

「優等生」は先生の言うことをよく聞き、嫌いな科目であっても与えられた教科書の試験範囲をきっちり勉強するので成績優秀です。一方「脱優等生」は、常識にとらわれずやりたいことに夢中になるので成績優秀とは限りません。

生徒は成績点数で序列をつけられます。点数が高い生徒はみんなから羨ましがられ、低い生徒は肩身の狭い思いをします。だからみんな1点でも多く取るために勉強します。

試験の代表格である大学入学共通テスト(旧センター試験)では、国が指定した教科書に書いてあることが絶対的に正解なので、教科書を鵜呑みにして勉強した人が効率よく高得点を取ります。スポーツや自由研究や芸術といった課外活動の成果は1点も加算されません。今の日本が停滞しているのは、従順な優等生が増えすぎたからだと私は思います。

「エンジョイ・ベースボール」の塾高森林監督は「指導者がきっちり管理してしまうと指示待ち人間を量産するだけ」「好きなことこそ自分で考えないと楽しくない」と述べておられますが、まったくその通りだと思います。試験で点を取るため、与えられた教科書を鵜呑みにし、自分の意見を考える必要がないとすれば、勉強が楽しくない。かくして「正解を教わる」という指示待ち人間を量産することになります。しかしこれからの世の中、優等生的な仕事は、どんどんAIに置き換わるでしょう。

本書は、ゲーム少年だった私が米国でAIを研究し、その後バイオに転身し、鶴岡キャンパスの研究所長を22年間務めた体験に基づくエッセイ集です。鶴岡で人工クモ糸のスパイバー社を起業した関山和秀君、鶴岡でホテルスイデンテラスを創業した山中大介君のエッセイも掲載しています。みんな自分でやると決めたことに無我夢中になるタイプです。

慶應義塾は「異端妄説の譏(そしり)を恐るゝことなく、勇を振(ふるい)て我思う所の説を吐(は)くべし」(文明論之概略)「学校は人に物を教うる所にあらず」(文明教育論)とあるように、異端な脱優等生を発育させる場のはずです。「自分にとって夢中になれることとは何か」。大人も子供もあらためてそれを考えるきっかけに本書がなれば幸いです。

『脱優等生のススメ』
冨田 勝
ハヤカワ新書
200頁、1,034円(税込)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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