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【執筆ノート】
『人口亡国──移民で生まれ変わるニッポン』

2023/10/18

  • 毛受 敏浩(めんじゅ としひろ)

    公益財団法人日本国際交流センター執行理事・塾員

日本各地で毎日のように、今年は過去最低になった、と人口減少のニュースが繰り返されている。地方選挙では人口維持が焦点となり、政府も異次元の少子化対策に取り組むとしているが、残念ながらその努力が実を結ぶ可能性は限りなく低い。なぜならそもそも子供を産む女性の数が若い世代ほど少なく、出生率が多少改善したとしても焼け石に水でしかないからだ。国立社会保障人口問題研究所の2070年まで見通した将来人口予測では、前年より人口が増える年は一度もない。

本書は1年間に80万人の日本人が減少する人口大激減期にもかかわらず、「移民」問題に正面から向き合えないニッポン。これを「移民ジレンマ」ととらえ、なぜ移民が政治的にタブーになったのかを解明することで、ジレンマからの脱皮を提案している。

端的に言えば、2010年を境に対立が深刻化した永住者の地方参政権をめぐる政治論争や、同時期に起こった日本と中国、韓国との領土問題によって、移民政策をとると中国人に乗っ取られるとの議論やヘイトスピーチの横行の結果、移民問題は感情的な問題となり、客観的な議論ができなくなったと言えよう。

一方、ドイツではムスリムを含む移民問題はタブー視された時期があったが、2004年に移民法を成立させた。そのことで人口減少から脱し、その結果、移民による起業が起業全体の3分の1を占めるまで彼らの潜在力を引き出している。

振り返れば島国の日本は、古来外国人、異文化を受入れ、それを日本文化に昇華させることで発展してきた。聖徳太子の時代の「今来才伎(いまきのてひと)」という言葉は、新来の外国人(ニューカマー)を意味する。つまりその時代にはオールドカマーもいたということだ。このように日本は歴史上、何度も外国人、異文化を受け入れてきた。

移民の受け入れは日本の伝統に反するものではない。むしろ、異文化、移民を受け入れてイノベーションを起こし、独自の文化を発展させてきたのが日本ではないだろうか。移民こそが日本の未来を切りひらく古くて新しい方法だということが本書のメッセージと言えるだろう。

『人口亡国──移民で生まれ変わるニッポン』
毛受 敏浩
朝日新書
256頁、935円〈税込〉

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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