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【執筆ノート】
『協働する探究のデザイン──社会をよくする学びをつくる』

2023/09/15

  • 藤原 さと(ふじわら さと)

    一般社団法人こたえのない学校代表・塾員

2020年以降新しい学習指導要領が順次導入され、探究という言葉が多く使われるようになった。しかし、現場の教師たちはなぜ探究なのか、どのように実践すればよいのかと不安に感じている。

探究という意味を持つ言葉は、古くはアリストテレス『ニコマコス倫理学』に頻出する。また教育の文脈における探究の背景にはプラグマティズムがある。こうした系譜を持った「探究する学び」は、さまざまな形で全世界に広がっている。本書は、こうした学びの中で代表的なものを紹介しつつ、その共通する構造や違いについて考察したものである。

教師でも教育学者でもない私が、なぜこんなものを書くのか。そのルーツは大学1年生のときにあったように思う。考古学を学びたいと1989年に文学部に入学した私は、同年8月にパキスタンに行き、イスラム教のあり方や激しい貧富の差に触れる。11月にはベルリンの壁が崩壊。私は転部し、2年生から法学部政治学科で学ぶこととなった。

しかし、日吉に残ったものの、競技場で寝てばかり。入りたいと思った唯一のゼミがDをとった公共選択を教える田中宏先生のところという悲劇。最初は当然落とされたが、先生に直談判して入れてもらった。ゼミでは正義論に関する本を読み、半泣きでプラトン『国家』について卒論を書いた。コーネル大学の大学院に行くがそこでも挫折。それから15年後、子育てをきっかけに教育に関わるようになる。

そこで驚いたのが、学部時代と今やっていることのあまりの近さである。前著『「探究」する学びをつくる』では公正を中核概念においた学校カリキュラムについて書きながら、プラトンの正義がどんどん迫ってきた。今回も教師たちの協働について考える中で、ロールズが傍にいるようだった。さまざまな考え方を持つ人々がどのようにして宥和できるのかということは今となってはほとんど私の一生のテーマである。

20歳前後で出会うものは一生を左右すると聞いたことがあるが、まさにその通りである。あてもなく彷徨っているように感じていたが、こうやって戻ってくるという不思議にただただ包まれている。

『協働する探究のデザイン──社会をよくする学びをつくる』
藤原 さと
平凡社
304頁、2,860円〈税込〉

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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