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【執筆ノート】
『編集者の読書論──面白い本の見つけ方、教えます』

2023/08/17

  • 駒井 稔(こまい みのる)

    編集者、ひとり出版社「合同会社駒井組」代表・塾員

「読書論」と聞くと、なんか難しそうだな、と思うのではないでしょうか。固い内容を想像して手に取るのを躊躇する方も多いと思います。そんな読書論の世界に、編集者として読者と同じ立ち位置で書かれたものがあってもいいではないか、というのが本書を執筆した理由です。

様々な角度から本にまつわるエピソードを取り上げていますが、第1章では、世界の編集者の読書論を取り上げています。これはあまり類例がないものだと思います。私自身が翻訳出版という仕事に携わることができたおかげで、実際に外国の編集者たちとコンタクトする機会に恵まれ、触発されることが多かったから書き得た1章です。特にロシアのスイチンという傑出した出版人の話は是非とも紹介したいものでした。トルストイやチェーホフとも非常に近い関係にあったスイチンの活動は編集者として教えられることの多い内容です。

第2章の「世界の魅力的な読書論」では、革命家・毛沢東の猛烈な読書家ぶりに驚かれるでしょう。そしてサマセット・モームの実に率直な読書論は一読の価値があると思います。楽しく読めることを第一に考えるのは、世界文学を前にして萎縮してしまうケースが多い私たちにとっては、非常に有益な助言です。さらには『カラマーゾフの兄弟』や『戦争と平和』などの飛ばし読みを勧めているところなど肩の力が抜けているモームならではの読書論で極めて貴重な見解だと思います。リラックスして世界文学を読もうという提案は、今こそ必要なのではないでしょうか。

世界の書店や図書館の章も私自身の体験に基づく部分もありますので、興味深く読めるのではないかと思います。そして長編作家を読むために「短編」から入っていくことの重要性を説いた章と「自伝文学」の面白さを堪能しようという章、最後の章で紹介する大人になったら「児童文学」を読み直してみようという私の提案を実践してみていただきたいです。児童文学は大人になって完訳版で読むとまるで印象が変わってしまうものがあります。是非、本書を手に取って、紹介している様々な本をお読みいただきたいと思います。

『編集者の読書論──面白い本の見つけ方、教えます』
駒井 稔
光文社新書
344頁、1,034円〈税込〉

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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