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【執筆ノート】
『ニッポン人のブルース受容史』

2023/06/09

  • 日暮 泰文(共編著)(ひぐらし やすふみ)

    Pヴァイン・レコード ファウンダー・塾員

ブルース! と言われて何が頭に思い浮かぶだろう? 「セントルイス・ブルースかい?」(昭和一桁生まれ)、世代を下ると「エリック・クラプトンでしょ」と断定されることも。最近なら「給料も上がらないし、日本のこの凋落ぶりは一体何なんだ」と、これまたブルースである。

戦前の「セントルイス・ブルース」は日本の歌謡曲ブルースのいわば先駆となり、クラプトンはブルース人口を大いに増やした。しかしブルースと呼ばれる音楽はまず、黒人ブルースでなくてはならない。ジャズともロックとも異なる伝統を持つ基盤音楽だからだ。

ジャズの礎にはブルースがあるらしい、フォーク・ソングの一部にフォーク・ブルースもあるし、ブルース衝動なるコンセプトも──それが1960年代、やがてブルースをたっぷり消化したロックも人気に。

当時ブルース(やR&B)のレコードなど、都内を歩きまわったところでほとんどなく、特注して3カ月ほど船便到着を待ち3ドルか4ドルのLPレコードを2千数百円出し($=360円)やっとの思いで手にしたものだ。ワン・クリックとはわけが違う。ブルースの体系も歴史もわからず、断片的に得た知識をすこしずつつなぎ合わせる。三田キャンパスでレコード・コンサートのチラシを配っていたこともある。

そんな時代からブルースが定着した1980年頃まで、ブルースの名称を冠した会社を75年に筆者が起業し、刊行したザ・ブルース誌から当時の受容を反映した評文、誤解や偏見もたっぷり、評価の大きな食い違いなど、一部ガリ版、タイプ印刷文字のまま時代を追って収録。異様な熱気をもって語られたブルースを振り返りつつ、今後を照射する1冊を髙地明とともに執筆・編纂した。各ページに未知なる巨大音楽へ向かう高鳴る鼓動が波打つ。

ゆるぐことのない王者B・B・キングを卑屈な芸人と貶める評価もあった時代、50年ほど前の闇夜のなかに光り出したものを求めた時代、若い聞き手からも記録にのこしてほしいという声も多くあがったこともあり、趣味の黒人素朴画など混ぜつつ、カラー図版多用の、ブルースと同様にずっしり重い1冊となった。

『ニッポン人のブルース受容史』
日暮 泰文
Pヴァイン
368頁、4,620円〈税込〉

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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