三田評論ONLINE

【執筆ノート】
『欧州戦争としてのウクライナ侵攻』

2023/05/22

  • 鶴岡 路人(つるおか みちと)

    慶應義塾大学総合政策学部准教授

2022年2月24日に始まったロシアによるウクライナへの全面侵攻は衝撃だった。21世紀において、ここまであからさまな国家間の侵略戦争が起きてしまったのである。

そして日本でも、テレビの報道番組、情報番組は、ウクライナ侵攻一色になった。筆者もしばらくは、1日に何度もテレビ出演をはしごするような異常な状況が続いた。その後も、一定の波はあっても関心が続いている。これは正直なところ、驚きだった。

この戦争が「プーチンの戦争」であり「ロシアの戦争」であることは自明だ。彼らが始めなければ起きなかった戦争である。そのため、「プーチンは何を考えているのか」、「ロシアの次の一手は」などの問いは重要だ。しかしそれだけでこの戦争の意味や全体像がわかるだろうか。

私自身は米欧の同盟であるNATO(北大西洋条約機構)を含む欧州の国際関係、安全保障が専門である。それでも、メディアからの質問はロシアに関するものが圧倒的に多い。「ロシアは専門ではありません」と何度お伝えしたことか。

今回の戦争の8年ほど前、2014年にロシアがウクライナのクリミアを違法かつ一方的に併合した際、世の中の議論は、ロシアに関する分析に終始してしまった。その経験を踏まえ、今回は、欧州の視点を粘り強く発信しようと心に決めた。

『欧州戦争としてのウクライナ侵攻』という書名には、そうした思いが込められている。当初想定されたように、ロシアが数日で勝利するような短期決戦であれば、これはプーチン、ないしロシアの戦争で終わっていただろう。しかし、ウクライナによる抵抗が成功し、NATO諸国を中心とし、日本を含む国際社会の前例のないほどの支援により、ウクライナは生き延びている。そして、この戦争で欧州は変わった。

欧州全体をみなければならない度合が増したのである。ロシアに関する議論のみで終わりにしてはいけない。ロシアについては例えば小泉悠『ウクライナ戦争』(ちくま新書、2022年)に任せたい。あわせて拙著を手にとっていただければ、欧州を含めた全体像により近づけるという役割分担を期待している。

『欧州戦争としてのウクライナ侵攻』
鶴岡 路人
新潮選書
288頁、1,815円〈税込〉

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

  • 1
カテゴリ
三田評論のコーナー

本誌を購入する

関連コンテンツ

最新記事