三田評論ONLINE

【執筆ノート】
『追跡 税金のゆくえ──ブラックボックスを暴く』

2023/05/12

  • 高橋 祐貴(たかはし ゆうき)

    毎日新聞経済部記者・塾員

中央官庁が集まる「霞ケ関」や地方自治体があえて税金の使途を見えづらくしているのでは──。そんな仮説を取材で紐解いていくと、SNSなどで未掲載の「1次情報」にたどり着き、好奇心を駆り立てられた。ただ、実名で報じるには常に怖さがつきまとい、何度も気後れした。不安を打ち消すには取材を積み重ねるしかなかった。

きっかけは政府の「持続化給付金事業」だった。コロナ禍で収益が悪化した事業者らに最大200万円を支給し、給付額は5.5兆円に上る。しかし、この事業は大手広告代理店などが設立したある一般社団法人に委託された。「中抜き法人」とも呼ばれたが、ある関係者は一般社団法人を利用して官公庁の監視の目を「合法的」にすり抜ける目的があったと証言。政府も長年、黙認せざるを得ない手法だった。

また、東京オリンピック・パラリンピックの委託業務における「人件費単価」の問題にも切り込んだ。会場運営の契約書とその内訳書には、「1人1日最大35万円」などと記載され、官公庁の委託事業と比べると約5倍に上る。後に会場運営を巡る入札で談合が表面化し、発注する組織委員会や委託企業の関係者らに逮捕者が続出したが、入手した資料は、言い値に近い金額で決めたものを後付けで「人件費単価」として調整するための根拠だった可能性が高い。ベールに包まれている「人件費単価」の姿に迫った。

この他にも、コロナ禍で医療機関や企業を支援した「バラマキ」政策は、効果を発揮した側面と常軌を逸した使途の明暗がはっきり分かれた。また、消防団や農業という「地方」の現場で公金が私的に搾取されている実態や「合法的な裏金」とも呼ばれている基金、上振れし続ける防衛装備品のコストなども取り上げた。

2021年度税収は過去最高を更新する67兆円に上った。一方で、社会保障費の支出は膨らみ続け、コロナ禍の財政出動は100兆円を超えた。足元では「防衛力の抜本的強化」を旗印に増税の動きもあるが、その前に見直すべきことがあるのでは─。そんな問題意識を持ちながら、コロナ禍という「有事」の霞ケ関を3年にわたって追いかけた。

『追跡 税金のゆくえ──ブラックボックスを暴く』
高橋 祐貴
光文社新書
248頁、946円〈税込〉

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

  • 1
カテゴリ
三田評論のコーナー

本誌を購入する

関連コンテンツ

最新記事