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【執筆ノート】
『さらば、男性政治』

2023/04/11

  • 三浦 まり(みうら まり)

    上智大学法学部教授・塾員

政治の場に女性が少ないことは、もはや一般常識になった。意外に思われるかもしれないが、女性議員が少ないことが取り沙汰されるようになったのはこの3〜4年のことである。それ以来、私自身は多くの取材において、「女性政治家はなぜ少ないのか」、「少ないことの問題は何か」、「女性議員が増えるメリットは何か」、「どうしたら増えるのか」について繰り返し質問を受けてきた。そこで、これらの質問にまとめて答え、また多くの人が活用できるデータや知見を共有したいと思い、本書を執筆した。

女性議員が少ない構造的背景とその問題を解明する本書のタイトルに「女性」の文字はない。なぜ「男性政治」をタイトルを選んだのかといえば、女性の少なさは往々にして女性だけの問題と矮小化されたり、女性側の問題であると論点をすり替えられたりしてしまうからだ。権力を男性が占有していることが問題の本質であり、それを打ち破らない限り、女性は増えないし、増えたとしても意味のある変革には繋がらない。焦点を女性の問題ではなく、男性政治の問題へとスライドさせるために、このタイトルを選んだのである。

男性だけが政治を占有することに異議を唱える男性もいる。だから、男性政治を変革するプロジェクトは決して女性だけのものではない。女性でも男性政治に組み込まれ、その維持を望む人は少なくない。男性vs女性の構図ではないのである。

本書で強調したのは、女性議員を増やすことは「通過点」でしかないことだ。女性を増やすことを目的と取り違えると、男性政治を再生産するための女性議員だけが増えることにもなりかねない。

男性が占有する政治のいびつさを、まずは民主主義の欠陥として捉えてほしい。そして、その歪みは政策にも表れる。女性が能力を発揮する機会を奪われ、安い労働力としてだけ見做される経済が発展できるとは到底思われない。ジェンダー平等のための法的基盤が日本では弱い。ほかにも男性政治による負の遺産は日本社会の随所に見られる。詳しくは本書を読んでいただきたい。そして、変革は可能であることを感じてほしい。

『さらば、男性政治』
三浦 まり
岩波新書
304頁、1,078円〈税込

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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