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【執筆ノート】
『あなたと動物と機械と――新たな共同体のために』(ドミニク・レステル著)

2023/03/22

  • 渡辺 茂(共監訳)(わたなべ しげる)

    慶應義塾大学名誉教授

あなたには友達がいますか? 多くの方がイエスと答えると思う。その友達は人間ですか、動物ですか? と聞かれれば、人間に決まっている、と答えるだろう。人間同士の友情に関する議論は多いが、動物との友情は議論されてこなかった。原著者のドミニク・レステルはこの問題に切り込む。

ドミニクは哲学的動物行動学者と名乗り、実際に動物研究も行っている。しかし、さすがにエコール・ノルマルの先生と言うべきか、背後に精緻な哲学的分析があり、なかなか訳者泣かせであった。友情は情緒・感情の面から論じられることが多いが、ドミニクは現象としての時間・空間の共有を取り上げている。これは人間同士、動物同士、人間と動物、のいずれの場合にも当てはまる。また、人間と動物の異種間関係が非対称であることを指摘する。動物は人間によって名前を与えられ、「人格化」され、伝記まで残す。一方、人間は限りなく動物を必要とする。ヒトは近縁種が全て絶滅した寂しい孤立種なのだ。ドミニクの筆は動物の死、遊び、さらに人間との音楽の共演(!)にまで及ぶ。

動物たちは私たちの共同体に組み込まれている。動物たちは伴侶、労働力、そして食料である。人間が一方的に動物を利用しているように見えるが、増殖に関しては人間が利用される側だ。地球上のオオカミの総数20万に対してイヌは4億を越す。異種メンバーからなるヘテロ共同体では異なるメンバーが相互に行動を統制する。家ネコは決まった場所で用を足さなくてはならないが、その準備は人間がしなくてはならない。ヘテロ共同体にはさらにロボットも参入する。機械は人間が作るが、人間が機械の仲間になるには彼らの言語を習得しなくてはならない。老人たちはスマホの仲間になるために涙ぐましい努力をしている。ドミニクは現在、日本のロボット学者との共同研究に力を注いでいる。

ところで僕は目に一丁字のフランス語もない。なぜ、この本が出せたかというと、フランス在住の若林さんと出版社の宍倉さんが下訳をし、それを鷲見洋一さんが丁寧に監訳してくださったからである。この作業はそれなりに楽しかった。

『あなたと動物と機械と──新たな共同体のために』(ドミニク・レステル著)
渡辺 茂
ナカニシヤ出版
160頁、3,300円〈税込〉

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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