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【執筆ノート】
『シンボル化の政治学─政治コミュニケーション研究の構成主義的展開』

2023/01/27

  • 烏谷 昌幸(からすだに まさゆき)

    慶應義塾大学法学部教授

慶應義塾にはいくつもの優れたシンボルが存在する。創立者の「福澤諭吉」先生、歌うほどに気持ちが高揚する「若き血」、他のどんな大学の旗よりも洗練された印象を与える「三色旗」、〈ペンは剣より強し〉という言論で戦う気概を表す「ペンマーク」。何より、塾員たちが長い年月をかけてつくりあげてきた〈私学の雄〉のイメージが凝縮した「慶應義塾」という名前それ自体。

これらのシンボルは、義塾の一員であることへの自覚を促し、愛着を覚えさせ、誇りを植え付ける。そして、義塾に関係する人々は皆、出身地や性別、職業や年齢という違いを超え、偉大な創立者と誇らしい名前を共有する仲間となることができるのだ。

このように人と人を繋ぐ接着剤のような役割を果たすシンボルが、集団の統合や団結にとって不可欠であることは、古くから知られていた。そして、団結を鼓舞する効果的なシンボルをつくり出し、共有することに成功した集団だけが、生き残って繁栄を享受してきたと考えられるのである。

アメリカの哲学者スザンヌ・ランガーは、人間が自らの経験をシンボルに置き換えることを欲する根源的欲求を持つと論じた。ランガーが名付けたこの「シンボル化の欲求」の考え方を起点として、そのアイデアを政治学の領域において展開させてみようと試みたのが本書『シンボル化の政治学』である。

政治シンボル論は「現代政治学の父」ともいわれるチャールズ・メリアムがいち早く注目したテーマであり、政治学の領域で早くから知られていた。だが、現代政治学が科学化、専門化の道を進む中、好んで取り上げられることなく放置されてきた経緯がある。

政治コミュニケーション研究やメディア社会学を専門とする筆者は、現代のメディア社会において「強いシンボル」が社会的に生産され、政治の領域に取り込まれて効果的な資源として利用されていくプロセスを詳細に探究する「シンボル化の政治学」が極めて重要であると考え、本書を書き上げた。

愛塾心溢れる塾員諸氏にも、是非お読み頂きたい一冊だ。

『シンボル化の政治学─政治コミュニケーション研究の構成主義的展開』
烏谷 昌幸 
新曜社
336頁、3,520円(税込)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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