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【執筆ノート】
『ニュースの政治社会学─メディアと「政治的なもの」の批判的研究』

2022/11/24

  • 山腰 修三(やまこし しゅうぞう)

    慶應義塾大学法学部教授

ニュースを政治社会学的に分析するという本書のねらいは2つあった。1つは政治社会の分析を行う上でニュースに注目することの意義、換言すると現代における社会や民主主義のあり方にニュースがいかに深く関わっているのかを示すことである。ニュースは社会の多くの人々の利害関心に関わる情報であり、それを分析することが社会の価値観の構造や動態の解明に通じるという点はこれまでも論じられてきた。そうした視点を発展させつつ本書が強調したのは、日常の中に埋め込まれたニュースの生産や消費という実践が、政治的・社会的な秩序の形成・維持・変容の力学の中に組み込まれているという点である。

もう1つはニュースをめぐる現代的危機の分析である。今日では伝統的なニュースメディアに対する不信や批判、他方でインターネット上でのフェイクニュースの拡散といったニュースをめぐる「危機」が生じている。こうしたニュースの危機が、トランプ現象やポスト真実のような民主主義の危機と連動してきたことは周知の通りである。とはいえ、ニュースの危機にはさらにいくつかの側面がある。第一は、デジタル化による情報の氾濫の中で「ニュースとは何か」をめぐる社会的な合意の維持が困難になっている点である。第二に、それと密接に関連して人々が「現実」にアクセスするための情報が過度に多様化、断片化した結果、ニュースを通じた社会的な現実の共有というメカニズムが機能不全を起こしている点である。これら二つの側面もまた、民主主義を成り立たせてきた既存の秩序の危機と結びついている。

なお、本書の構想を開始した当初は1点目を中心にまとめる計画であった。しかし、この数年でメディア環境と政治状況が相互に関連しながら急激に変化する中、次第に2点目の危機診断も本書の中心的なテーマへと発展することとなった。

本書は筆者が慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所にジャーナリズム論の専任教員として着任した後、法学部へ移籍するまでの研究の成果である。さまざまな研究の機会を与えてくださった同研究所に改めて感謝したい。

『ニュースの政治社会学─メディアと「政治的なもの」の批判的研究』
山腰 修三
勁草書房
262頁、2,970円(税込)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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