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【執筆ノート】
『リスクを考える──「専門家まかせ」からの脱却』

2022/10/27

  • 吉川 肇子(きっかわ としこ)

    慶應義塾大学商学部教授

本書は、リスク・コミュニケーションをキーワードに、リスクについての基本的な議論を、心理学的な視点から紹介したものである。

執筆のきっかけは、筑摩書房の編集者の方から、長文の自筆の執筆依頼を書簡で頂いたことである。自筆の書簡をもらうことなどまずない経験なので、即座にお引き受けした。

私は、論文も含めて書くものはすべて構成を決めてから書く。したがって、構成の相談には時間をかけた。論文なら、「リスク・コミュニケーションとは」とか、定義から書き始めるようになりがちである。そうではなく、こういう章立てはどうか、などと丁寧にアドバイスしてくださった編集者の方には、本当に感謝している。

執筆の際気をつけたのは二点である。第一は、私から提案して編集者からも了承を得ていたのだが、コロナのような最近の事例をできるだけ入れないことである。最近の事例を取りあげたら、今はわかりやすくとも、数年もすれば細かいことは忘れられてしまう可能性が高い。それよりも、たとえ古い話であっても、将来同じようなことが起こりそうな事例を積極的に紹介した。たとえば、公害や薬害の多くは、後遺症の認定や裁判に長期間を要している。現在進行形で起こっている事象でも、同様なことは起こりうる。

第二に、2016年から岩波書店の雑誌「科学」で間欠的に5回ほど危機管理に関する論考の連載と、別途コロナ関係の2本の論考を書いていたので、その内容と重複しないようには、最も気を使ったところである。

ただ、上記の自分ルールも厳密には守りきれないところもあり、コロナの話がちらほら出てきたり、「科学」と微妙に重複があったりはする。この点については、読者が寛容であることを願うのみである。

この分野で現在出ている本としてはベストの書という、お世辞の言えない友人の評価も得ているので、皆さんには是非ご購入を勧めたい。

ここだけの話だが、本書には、筆者が約20年の京都生活で習得した、微妙に「いけず」な表現を、ところどころに入れてある。熟読してそれらを発見していただくのも、読む楽しみの1つに加えていただければなお幸いである。

『リスクを考える──「専門家まかせ」からの脱却』
吉川肇子
ちくま新書
240頁、946円〈税込〉

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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