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【執筆ノート】
『母さん、ごめん。2 ── 50代独身男の介護奮闘記 グループホーム編』

2022/10/18

  • 松浦 晋也(まつうら しんや)

    ノンフィクションライター・塾員

母が80歳にして認知症を発症してから8年が過ぎた。最初の2年半は私が自宅で介護したが、症状の進行と共にどうにもならなくなり、2017年1月に、認知症老人が集団生活を営む施設であるグループホームに入居させた。

自宅介護のあれこれは『母さん、ごめん。50代独身男の介護奮闘記』(日経BP社)という本にまとめた。それから5年半。その続編としてグループホームについてのあれこれをまとめたのが本書である。

おそらく、家族に認知症老人を抱えていない人で、グループホームのなんたるかを知っている人は少ないだろう。

が、実際に母を入居させ、面会に通うようになると、そこは大変に刺激的な「現場」であった。2000年にスタートした介護保険制度は、様々な問題を抱えつつも、それなりの成果を出してきていた。その1つが「その地域に居住してきた認知症の老人が、少人数で集まってアットホームな環境で生活を営む」という施設のグループホームだったのだ。

なにより私が感嘆したのは、介護の技術がかつて、自分の祖父母を見送った時代から、大きく進歩していたということだった。グループホームのスタッフが駆使する会話の技術――どのように接すれば、認知症の老人が安心して生活できるのかという会話の技術は、まさに芸術品の域に到達しているように思われた。

とはいえ、問題が絶えることはない。グループホームの日々は1つ問題が解決すれば次の問題が起きるということの連続だ。それは自宅での介護と変わることはなかった。

そして、どんなに頑張って明るい生活を作っていっても、グループホームが、人生最後の時間を過ごす場所であり、多くはそこからあの世へ旅立っていくという事実は変えようもない。

この本では、そんなグループホームの「今」をなるべく客観的に読者に概観できることを目指して執筆した。なにしろ死なない人はいない。誰もがいつかはグループホームの住人となる可能性があるのだ。

これはいつか老いて死ぬあなたのための本です、というのが、私の掛け値なしの本音である。

『『母さん、ごめん。2── 50 代独身男の介護奮闘記 グループホーム編』
松浦晋也
日経BP社
304頁、1,760円〈税込〉

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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