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【執筆ノート】
『医者が教える非まじめ介護のすすめ』

2022/07/13

  • 大塚 宣夫(おおつか のぶお)

    医療法人社団慶成会会長・塾員

介護をする側に立った心得やアドバイスの本はこの世にごまんとある。接し方や話し方、何か起きたときの対処法など、介護を実際に経験、体験した方が、具体的にその手法や心の持ち方をアドバイスしたり、あるいは、介護する側としての心情をリアルに綴ってあったりする。

医師として高齢者施設に関わるようになって40年余、多くの高齢者とその家族に接してきて、いつも気になったのが、施設に預ける家族の側と、預けられる高齢者側が望む生活や介護についてのギャップである。

家族の多くが望むのは規則正しい日課。三食を残さず摂ること、入浴は毎日、そしてできるだけ多くのリハビリ。預けられた当人の望みは、その日その時の気分に応じた極力気ままな生活。目が覚めたら起き、好きなものがあったら食べ、入浴は週1回で十分、今さら頑張ってリハビリして、その先何をせよと云うのか。

私自身、80歳を超えた今、まだ現役で仕事をしており、世に言う介護を必要とする状態ではないが、ここ2、3年は体力・気力・記憶力等、すべてが加速度的に落ちているのを実感せざるを得なくなっている。一瞬は頑張れても持続しないし、何気なくやれていたことが出来ないもどかしさ。何より、もうすべてが「億劫だ、面倒だ」というイラ立ち……。

そうか、老いるとはこういうことだったのか。

情けなさとどこかいたたまれない気持ちと、諦めや怒り。そして時々の開き直りなど、さまざまな感情が複雑に絡み合った矛盾だらけの気持ちを抱えて、高齢者は生きているのだ。

高齢者は人それぞれに生活のリズムや自分なりのやり方がある。周囲が危なっかしいと気にかけてくれるのは良しとしても、「よかれ」と思っての余計な口出しや教育的指導などまっぴらゴメン。周囲に気兼ねしながら生きるのはもうたくさん。これが高齢者の本音なのではないか。

高齢者との付き合いは、まず、そんな高齢者の本音を知り、どんな状態にあっても「目を離すな、手を出すな」を基本に、程良い距離を保つことこそが中核になる。その上で対処すれば、高齢者も介護する側も大いに気持ちが楽になるのではと思いながらこの本を書いた。

『医者が教える非まじめ介護のすすめ』
大塚 宣夫
PHP研究所
176頁、1,320円〈税込〉

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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