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【執筆ノート】
『エシカルフード』

2022/04/27

  • 山本 謙治(やまもと けんじ)

    (株)グッドテーブルズ代表取締役社長・塾員

SDGsが世界の新たなルールとなり、全産業が持続可能性という前提を踏まえた上でビジネスをしなければならなくなった。そのSDGsで示されているゴールをみると、環境や人、動物などに対して倫理的な配慮をするということが軸になっていることに気づくと思う。この倫理的な配慮をエシカルという。欧米では1980年代よりエシカル消費運動が興り、大きなうねりになって現在に至る。私からみればSDGsもその文脈の派生物とみえる。本書はそのエシカル消費について、「食」に特化した形で解説したものだ。

なぜこのようなテーマで書いたか。私はSFCの2期生で、キャンパス内に畑を拓き、野菜を栽培するサークル「八百藤」を創った者だ。卒業後も農産物や畜産物の流通の世界に身を置きつつ、食のジャーナリストとして活動してきた。在学時からずっとテーマとしているのが生産者の手取りを上げることだが、日本では消費者ばかりか流通までも低価格を要求するため、なかなか難しい。そんな中、13年前に欧米のエシカル消費の波と出会い、この活動が拡がれば生産者の手取りを上げられるのではないかと確信。仕事を続けながら北海道大学大学院農学院の博士課程へ進み、エシカル消費先進地であるイギリスでの現地調査を行った。そこで直面したのが、欧米のエシカル概念と日本のそれとが歴史的・文化的に違っており、ギャップがあるということだ。端的に言うと、欧米のエシカル観からみると、日本の食品の多くが「倫理的でない」というのが現状だ。そうしたギャップを超えて、日本の食を世界からエシカルと認識してもらうためには、欧米の考え方を把握しつつ、日本としてのエシカルを確立せねばならない。それには何が必要か、本書はそのヒントを書いたものとなっている。

塾員にも食の世界に関わる人が多いだろう。日本の価値ある食品や飲食サービスを世界に発信するためには「日本なりのよさ」のみならず「世界の潮流を踏まえた上での日本のよさ」を訴求していく必要がある。日本の食文化を世界に胸を張って提示するためには、全体的なバージョンアップが必要だ。本書がその一助となれば幸いである。

『エシカルフード』
山本謙治
角川新書
256頁、990円〈税込〉

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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