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【執筆ノート】
『アフター・メルケル──「最強」の次にあるもの』

2022/03/17

  • 唐鎌 大輔(からかま だいすけ)

    みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト・塾員

EU本部(欧州委員会)勤務経験を活かしたいとの思いから、これまでEUに関してユーロ圏経済、欧州中央銀行と2冊の単著を出させて頂いた。「3冊目のテーマはEUの盟主ドイツ」ということは相当以前から心に決めており、少しずつ書き溜めてきた。筆を進めていた2018年10月、メルケル首相が2021年をもって政界から引退すると宣言した。これはEUにとって歴史の節目になると感じ、原稿の構成を修正し始めた経緯がある。メルケル首相の在任期間は2005年から16年に及ぶ。1999年に産声を上げた単一通貨ユーロに至っては、ほぼメルケル首相の歴史と重なる。今後もEUやユーロ圏の歴史は続くが、メルケル以前と以後で整理されても不思議ではないほど、メルケル首相の足跡は大きなものであった。

せっかくドイツについて議論を深めるのであれば、メルケル首相という大人物の引退を軸に議論を組み立てた方が多くの人に興味を持って頂けると考え、本書のような題名とし、中身もメルケル時代を議論の中心に据えた。筆者の専門とする経済・金融に関する議論が当然多いものの、政治や外交といった側面も極力丁寧に取り扱ったつもりである。また、時間軸としては現在・過去・未来の3つの切り口から論点を整理し、読みやすくする工夫も心掛けた。

なお、本書ではドイツと日本の比較も試みた。日本人の多くは「ドイツと日本は似ている」と考える向きが多い。しかし、2000年代以降の政治・経済を振り返ると、日本ドイツの後塵を拝してきた感が強い。もちろん、「永遠の割安通貨」であるユーロを筆頭にEU特有の構造的な強みがドイツを利しているのは間違いなく、その点で日本からすればアンフェアと感じる部分もある。だが、シュレーダー改革のように「痛みは伴うが必要」と考えられる政治課題を着実にクリアしてきた結果がメルケル時代の16年を通じて、殆ど景気減速が見られなかった背景でもあろう。かつてシュレーダー改革が抱えた問題意識の多くは今の日本にも当てはまるものだ。アンフェアを嘆くだけではなく、ドイツから学ぶべきものを貪欲に吸収する姿勢が日本には求められるように思う。

『アフター・メルケル──「最強」の次にあるもの』
唐鎌大輔
日経BP日本経済新聞出版本部
292頁、2,640円〈税込〉

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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