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【執筆ノート】
『リーダーシップ進化論──人類誕生以前からAI時代まで』

2022/02/14

  • 酒井 穣(さかい じょう)

    株式会社リクシス創業者、代表取締役副社長・塾員

結果が決まっているところに、リーダーが出現しても意味がない。勝ち負けがわからない、不確実性の高い環境にある組織だけが、リーダーによる難しい意思決定と導きを必要とする。そもそも人間の社会は、歴史が始まってからずっと、そんな不確実性と隣り合わせであった。

リーダーによる導きによって、このような不確実性を克服した組織だけが生き残ってきた。人類史とは組織レベルでの淘汰史であり、背後にあるのはリーダーシップの進化論であると気づいた。混乱を極めている現代のリーダーシップ論に対して、1つの軸を提供できるかもしれない。そう考えたのは、今から5年ほど前のことである。

そう気づいたところまでは良かった。しかし、このテーマで執筆することになるのは、つまるところ人類史である。参考文献の読み込みに時間がかかり、間違い探しにはもっと時間がかかった。コロナの影響で、出版時期が予定より大幅に遅れたことは、執筆時間を確保したい私にとって、むしろ幸いであった。

生物学、哲学、歴史学、社会学、文化人類学、考古学、脳科学、政治学、心理学、経営学と、多くの興味深い分野における研究成果を参照した。楽しみながら執筆したので、こうして執筆を終えてしまうと、少し寂しさを覚えている。とにかく本書の執筆においては、知ることの楽しさが損なわれないよう工夫した。

リーダーとは、成り行きで出現する大きな問題と戦う存在である。貧富の二極化、環境問題の顕在化、紛争と新たな冷戦は、出現しつつある大きな問題ではある。しかし人類史のスケールからみれば、これらは過去に何度もあった話だ。人類は、これらの問題を(なんとか)乗り越えてきた。だから、これらの問題は、それぞれに重要ではあるが、きっと克服できると思う。

ところが、今、私たちが直面している最も大きな問題は、人類史上、かつて一度も出現したことのないものである。私は、その不幸に対して「ソーシャル・ビッグ・クランチ」と名づけ、ずっと恐れてきた。過去とは本当に非連続な社会が誕生しつつある。この危機を、本書によって読者と共有し、ぜひ議論したい。

『リーダーシップ進化論──人類誕生以前からAI時代まで』
酒井穣
BOW&PARTNERS
408頁、2,200円〈税込〉

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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