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【執筆ノート】
『イデオロギーと図書館──日本の図書館再興を期して』マイケル・K・バックランド著

2021/12/08

  • 高山 正也(監訳・著作協力)(たかやま まさや)

    慶應義塾大学名誉教授

1951年4月慶應義塾大学文学部に我が国初の本格的図書館学校と呼べる「図書館学科」が占領軍や米国図書館協会の全面支援の下、開設されたが、何故、軍が司書の養成を始めたのかは判然としていなかった。

カリフォルニア大学バークレー校名誉教授のマイケル・バックランド博士は日本占領軍の図書館政策をアーカイブズに残る資料類を分析・解釈し、“Ideology and Libraries” として2021年初めに出版した。本書はこの書の日本語訳である。

著者はGHQの民間情報教育局(CIE)で図書館情報業務の基礎を築いたPhilip Keeney と彼の後任で、CIE情報センターを開設した2代目図書館専門官Paul Burnette、そしてJapan Library School を慶應義塾大学に開設することを最終的に決定したRobert Gitler の3人が揃ってバークレーのLibrary Schoolの出身であった事実に着目した。バークレーの図書館学校の基礎を築いたSydney Mitchell は自由民主主義社会の基盤となる健全な主権者は公共図書館によって養成されると固く信じていて、この思想に感化された、3人の教え子たちが占領下日本で、自由民主主義社会を形成すべく、図書館学とそのサービスの日本への移入に努力したのであった。

およそ75年も前の話と笑うなかれ。今や世界では自由民主主義を標榜する国は少数派となり、日本の民主主義の手本であった米国も、昨年の大統領選挙後にはありうべからざる混乱状態を呈した。さらに日本の近隣には権威主義的な全体主義の優位性を強調する国もある。

バックランド博士の占領軍文書に基づく指摘を、更には図書館が社会の知的文化発展の礎であり、司書は健全な主権者の良き伴走者であることで、自由民主主義社会の基盤となるというバークレー図書館学校出身者の図書館への思いを今一度嚙み締めたい。さらにギトラー元教授の図書館学を慶應義塾に根付かせようとの想いと、彼を助けて、時の潮田塾長、橋本孝常任理事、清岡暎一元教授たちの努力等を、日本人として、慶應義塾に関わる者として、敗戦と言うあまりにも大きな代償の末に得た「自由民主主義」の護持に如何に向き合うべきかを再考したいと思う。

『イデオロギーと図書館──日本の図書館再興を期して』
マイケル・K・バックランド著
高山正也(監訳・著作協力)
樹村房
260頁、3,300円〈税込〉

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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