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【執筆ノート】
『日本大空襲「実行犯」の告白──なぜ46万人は殺されたのか』

2021/11/10

  • 鈴木 冬悠人(すずき ふゆと)

    NHKGメディア報道番組部ディレクター・塾員

ある資料に出会ったことが、すべての始まりだった。半世紀にわたり、アメリカ空軍の施設に死蔵されてきた「肉声テープ」である。軍内部で行われた聞き取り調査の音声記録。証言者は米空軍将校246人。太平洋戦争時に軍の中枢にいた将校らが、本音や思惑を赤裸々に語っていた。

「戦争は素晴らしいチャンス」「航空戦力のみで日本に勝利する」「陸・海軍に空軍力を見せつける」……。

表向き「正義と人道」を掲げていたアメリカ。だが、語られていたのは、それとは全く異なる空軍独自の目論みだった。日本への無差別爆撃の舞台裏で、米軍内部で独立するという野望を掲げ、空爆の戦果は、それを実現するための足がかりだった。

かねてから、疑問に思っていたことがある。76年前、なぜ日本は、あれほどまでに徹底的に空爆されなければならなかったのか。当時、日本の敗色は濃厚で、アメリカの勝利は決定的だった。にもかかわらず、終戦までのわずか1年足らずの間に、46万人が犠牲となった。その答えを知るための手がかりが、合計300時間を超える肉声テープにあった。

1つ1つの証言がパズルのピースとなり、日本への無差別爆撃の真相が明らかになっていく。東京大空襲の“首謀者”として悪名高いカーチス・ルメイも、空軍独立を果たすための駒にすぎず、倒錯していく命令に追い詰められていた。「結果を出さなければクビになる。それはそれは孤独なものだった」。

ルメイの背後には、史上最悪とも言える無差別爆撃を周到に準備し実行させた空軍トップ、ヘンリー・アーノルドの存在が浮かび上がる。そして、その無差別爆撃につながる空爆戦略を生みだしたのは、アーノルドが師と仰ぐ、ある1人の男だった。真珠湾攻撃を17年前から予想していたほどの慧眼の持ち主で、その思想は空軍の教義として、今も脈々と受け継がれている。

本書は、2017年8月にNHKで放送した「なぜ日本は焼き尽くされたのか」の取材情報をもとに執筆した。半世紀の時を経て、今に問いかけてくる米空軍将校の声は、私たちにどんな気づきを与えてくれるのか。これは、アメリカ側の視点から見た“日本大空襲の真相である。

『日本大空襲「実行犯」の告白──なぜ46万人は殺されたのか』
鈴木 冬悠人
新潮新書
224頁、836円〈税込〉

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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