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【執筆ノート】
『森林で日本は蘇る──林業の瓦解を食い止めよ』

2021/10/26

  • 白井 裕子(しらい ゆうこ)

    慶應義塾大学政策・メディア研究科准教授

『森林で日本は蘇る』では林業から木材、伝統木造について解説しています。今回も前著『森林の崩壊』も情報過多だと言われ、大幅カットされました。内容は広く多くの方々にお伝えしなければ、と思ったことで、⾃分の研究については数頁。研究や開発を進める上で、たまたま知ってしまったことが大半です。前著の出版も偶然でした。私は新潮社が出している国際情報誌の⼀読者に過ぎず、違和感を覚えた記事に、研究者としてコメントしておこうと思い、文書を送りました。それが書店で販売される本の原稿の一部になるとは想像もしていませんでした。

まさか工学が専門の私が新書を書くなんて。当時、たまたま日本学術振興会の特別研究員(PD)でなければ、原稿を書き上げることはできなかったと思います。そして前著『森林の崩壊』を書いた後、もう書くことはないと思っていました。全ては良くなる方向に進むと考えていたからで、私もそう願っていました。しかし現実はそうはならなかったのです。

本書『森林で日本は蘇る』を書いたきっかけは、内閣府規制改革の担当官の熱意に、私も力を振り絞ろうと思ったからです。規制改革の専門委員を仰せつかっている時も、知人の実務家も巻き添えにして、何がどうなって、そのようなことが発生しているのか、説明することに尽力しました。ほとんどボランティアです。このお節介に担当官も誠意をもって応えてくれました。野村総研勤務時代には霞が関の裏方の仕事も多かった為、時が過ぎる早さも感じました。

意外にも前著は、まずは組織を率いる方や経営に携わるビジネスマンに読んで頂き、農林⽔産省には平積みになって置いてあったそうです。本書も、同じ傾向があり、農林水産省内の書店でよく売れているそうです。

ようやく本を出せ、社会貢献の役目を少し果たせたような気になれましたので、また研究に専念したいと思います。研究者は自分自身の専門性で、何かを考え出し、生み出すことができます。難しく理解しがたい現象を解いていく、こんな面白い職業はありません。前著も出してすぐ渡仏し研究に向かいました。今回も1つ仕事を終え、また研究人生を謳歌したいと思います。

『森林で日本は蘇る──林業の瓦解を食い止めよ』
白井 裕子
新潮新書
192頁、792円〈税込〉

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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