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【執筆ノート】
『アート・ロー入門──美術品にかかわる法律の知識』

2021/07/28

  • 島田 真琴 (しまだ まこと)

    慶應義塾大学大学院法務研究科教授、弁護士

イタリアのミケーラ・コッキから「マコト、力を貸してくれない?」と声を掛けられたのは20年ほど前である。彼女はボローニャに事務所を構え、ファッション誌・美術誌出版社の顧問をする弁護士だが、この時の頼みは、パリに本部を置く国際弁護士連盟(UIA)の分科会としてアート法委員会を新設するので手伝ってほしい、とのことだった。当時の私はアート法(美術品・文化財に関連する法律の総称)の意味すら知らなかったが、ファッション誌から抜け出たようなミケーラと一緒なら楽しいかも、という程度の動機で安請け合いし、数年間、アート法委員会副委員長を務め、セミナーや国際会議の企画運営を中心に彼女をサポートした。UIAアート法委員会は、アート法を扱う各国の法律家が業務上経験した問題を持ち寄り、その解決方法等を研究する会議体で、当時は世界のアート法専門弁護士が集結して情報交換する唯一の機会だった。

私もこの活動を通じて様々な法律問題を知るとともに、文化財保護法の権威であるロンドン大学ノーマン・パルマー教授(故人)、ナチス略奪美術品の取戻しが専門のニューヨーク州弁護士ハワード・スピグラー等多くの知己を得て、アート関連事件を扱う機会が増えていった。

こうした経験を生かし、2010年より慶應法科大学院に「アートと法」の講座を設けて、学生に美術品取引に関する法務を指導している。当初、司法試験の受験科目でもないアート法を法科大学院で教えることに躊躇はあったが、思いのほか多数の優秀な学生が受講し、卒業後も「一番面白い科目だった」、「刺激的だった」等と感想を寄せてくれる。

本書は、コロナ禍による自宅待機中、授業の教科書とするために執筆を始めたものだが、出版社の助言を受け、法律を知らなくても理解できるようにできるだけ平易な表現にし、いろいろな工夫を施した。美術品の取引が急増する中、アート法の重要性も増しているが、アートに関連する業務に必要な法律を解説する参考書はほとんど見当たらない。アーティスト、ギャラリスト、キュレーター、美術愛好家その他アートに関心を持つ多くの方々に本書を利用して頂きたいと願っている。

『アート・ロー入門──美術品にかかわる法律の知識』
島田 真琴
慶應義塾大学出版会
352頁、3,740円〈税込〉

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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