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【執筆ノート】
『中国が宇宙を支配する日──宇宙安保の現代史』

2021/06/24

  • 青木 節子(あおき せつこ)

    慶應義塾大学大学院法務研究科教授

本書は、3部構成で中国、米国、日本を中心に宇宙開発と宇宙安全保障の歴史と現状、未来を考察するというかたちをとる。米中の宇宙覇権争いが中心ではあるが、それぞれの時代、日本は何を目標とし、どう行動したのか、という点を強く意識して執筆した。

「宇宙」は人類の夢や希望の象徴と捉えられることが少なくないが、これは、宇宙活動のほんの一端にすぎない。そもそもロケットは、核兵器の効果的な運搬手段としてのミサイル開発の一環として生まれた。ロケットとミサイルは先端に搭載するのが衛星か兵器かという違いだけで、技術的にはほとんど同じ機器であり、第2次世界大戦終結後ほどなく冷戦に入った米国とソ連(現ロシア)が熾烈な核戦力競争を繰り広げなければ、莫大な資金を必要とする宇宙開発はこれほど急速には進んでいなかったと推測される。

軍事的目的で始まった宇宙開発ではあったが、ミサイルの精度を高めるための測位航法衛星の信号からカーナビがつくられ、スパイ衛星技術が災害監視や地球観測に役立てられるなど、宇宙は市民生活の利便性向上や安心・安全に欠かせないものでもある。事実、冷戦後の一時期は、宇宙はこの方向でますます発展するだろうと世界中が楽観した。折しも豊かになりつつあった中国は、国連の宇宙活動に積極的に参加して欧米諸国に暖かく迎え入れられ、米中二国間の宇宙ビジネスも進展していった。

しかし、米中蜜月の果てに訪れたのは、米国の宇宙・ミサイル技術が違法、合法さまざまなかたちで漏洩し、中国の核戦力と宇宙兵器能力を向上させたという結果であった。現在、中国は一部の領域では米国を凌駕する。そして、米国市場から閉め出された中国は活路を途上国に求め、習近平政権下で「宇宙の一帯一路」を成功させつつある。

ところで、占領下航空宇宙活動を禁止されていた日本は、軍事目的とは無関係に100パーセント国産技術でロケットの打上げに成功した唯一の国である。その後の躍進から失速、挫折を経た日本が、領土と民主主義を守り抜くことを決意して取り組む宇宙能力の向上を実証的に記述することが本書の真の目的であった。

『中国が宇宙を支配する日──宇宙安保の現代史』
青木 節子
新潮新書
224頁、836円〈税込〉

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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