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【執筆ノート】
『地域衰退』

2021/04/16

  • 宮﨑 雅人(みやざき まさと)

    埼玉大学大学院教授・塾員

1月に岩波新書『地域衰退』を上梓した。本書では、「なぜ地域は衰退したのか」について、具体例を交えながら説明している。また、一部の地域では、地域衰退の「臨界点」に達している可能性があることを明らかにしている。さらに、現在行われている政策の問題点だけでなく、地域衰退を食い止めるために行うべきことについても論じている。

当初、本書は地域格差の問題について取り上げる『地域格差』という新書として2007年に企画された。また、筆者の単著ではなく、金子勝教授(当時。現在は慶應義塾大学名誉教授・立教大学大学院特任教授)との共著としてであった。しかし、諸般の事情により、遅々として筆は進まなかった。その後、新書の企画が再び動き出すことになったのが2019年の春のことである。企画再開にあたっては、筆者の単著という形で執筆されることになり、「なぜ地域は衰退したのか」を基盤産業(地域外へ生産物を移出し、地域外から所得を得る産業)の衰退に焦点を当てて描くことになった。

基盤産業が衰退した地域の事例として、長野県須坂市、同県王滝村、群馬県南牧村、旧産炭地が登場する。中でも須坂市は、慶應義塾に進学するまでの18年間を過ごした故郷である。同市は富士通須坂工場があった、人口約5万人の小さな企業城下町であった。しかし、2002年の同工場のリストラをきっかけに、地域経済は衰退の一途を辿っている。地域衰退の一事例として同市を取り上げたことには、正直、心苦しさも感じているが、同市の衰退が本書執筆の動機となったと言っても過言ではない。

執筆を進めていく中で、企画再開当初の構想から内容が大きく変わったところがある。それは、地域に雇用を生み出してきたインバウンド需要と、東京一極集中と「都市と農村の格差」を生み出してきた、東京のサービス業の雇用吸収力の扱いである。これらの変化は、新型コロナウイルスの感染拡大によるものであり、感染拡大が地域経済に深刻な影響を与えていることがデータで明らかにされつつある。地域衰退がどのように進んでいくのか、今後も引き続き注意深く見ていきたい。

『地域衰退』
宮﨑 雅人
岩波新書
200頁、880円〈税込〉

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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