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【執筆ノート】
『感情の哲学入門講義』

2021/03/23

  • 源河 亨(げんか とおる)

    九州大学大学院比較社会文化研究院講師・塾員

日常的には、「心」といえば「感情」のことでしょう。知覚、思考、予測、想像など、心の働きはさまざまありますが、やはり感情が心の代表例だと思われるのではないでしょうか。

そうすると、哲学的に心を研究する「心の哲学」の中心は感情だと思われるかもしれません。ですが、私が心の哲学に初めて触れた15年ほど前はそうではありませんでした。当時の日本の「心の哲学」では、「心と脳は同一なのか」「意識は物理現象として理解できるのか」といった、心身問題が主に扱われていました。もちろん、心身問題はデカルト以来哲学の最重要問題です。また、当時も海外では感情の哲学の文献がそれなりにあったのですが、日本ではほぼ紹介されていなかったと思います。

日本で感情の哲学が注目されるようになったのは5年くらい前からでしょう。その頃、信原幸弘・太田紘史(編著)『シリーズ 新・心の哲学Ⅲ 情動篇』(勁草書房、2014)、戸田山和久『恐怖の哲学』(NHK出版、2016)など、海外の研究状況を踏まえた著作がいくつか出版されました。そのとき私も、感情の哲学の基本書とされているジェシー・プリンツ『はらわたが煮えくりかえる』(勁草書房、2016)を翻訳しました。その後も、信原幸弘『情動の哲学入門』(勁草書房、2017)、西村清和『感情の哲学』(勁草書房、2018)が出版されるなど、現在では感情の哲学が日本で流行っていると言えるでしょう。

日本語文献も増えたので、大学の授業でも感情を取り上げやすくなりました。実際、感情は哲学を教えるうえでふさわしいテーマだと思います。哲学というと抽象的で現実離れした分野だというイメージがありますが、それに対し感情は、日常的に経験するとても身近なものです。なので、感情をテーマにすると、身近な話から具体的に哲学を学ぶことができます。私の授業でも、全学部を対象とした教養科目の哲学では、感情を扱ったときが一番学生うけが良かったように思います。

そうした感情の哲学の授業をまとめたのがこの本です。「大学の哲学の授業ってどんな話をしているんだろう」と気になった人は、ぜひ手に取ってみてください。

『感情の哲学入門講義』
源河 亨
慶應義塾大学出版会
240頁、2,000円〈税抜〉

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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