【執筆ノート】
『Weの市民革命』
2021/03/09
2020年12月15日に朝日出版社から『Weの市民革命』というノンフィクションを上梓した。もともと2014年に同じ出版社から刊行した『ヒップな生活革命』の続編として考え始めたものだった。2008年の金融危機をきっかけにアメリカの消費者マインドに起きた変化を伝えた本に「革命」という言葉を使ったが良いが、その後、日に日に深刻さを増す気候変動を前に、より抜本的なシステムチェンジ、つまり比喩ではなく、真の改革の本を書かなければならない、と思うに至った。トランプ政権の発足とともに火山のように活発化した消費者運動や、政府や企業に積極的な対策を促し、温暖化を食い止めようとするミレニアル世代やZ世代のアクティビズムをルポすることで、今、消費者が何ができるか、をまとめた原稿を、2020年の序盤に編集者に渡したのもつかの間、新型コロナウイルスの到来によって劇的な社会変動が起きたことから、大幅に書き直すことになった。夏には出したいと思っていたが、動き続ける標的を捉えようとする作業に予想以上に苦心し、なんとか2020年代最初の年が終わる前に、刊行にこぎつけた。
気候変動によって生態系が崩れる中、未知のウイルスが発生する可能性があることはこれまでも科学者たちが警告してきたことだが、それが既存の資本主義に急ブレーキをかける展開になり、これまでプログレッシブ、ファーレフトと表現される層の人たちが求める改革が実行に移されるようになった。最低賃金の底上げや福祉の拡充など、所得格差を縮小する政策が実行に移されるようになった。自治体はウイルスを抑え込むために、無保険人口を減らす努力を自ら始めるようになった。
現職の大統領が選挙の結果を認めないという特異な状況はアメリカの分断を露わにしたが、行政の現場では実体のある改革が日々進んでいる。トランプ政権の4年間に起きた消費者運動がなければ、バイデン政権は生まれなかったと確信を持って言える。最終的に伝えたかったのは、社会変革は可能なだけでなく、不可欠だということだ。自分が属する社会を良くするために何ができるかを考えるきっかけになれば幸いである。
『Weの市民革命』
佐久間 裕美子
朝日出版社
232頁、1,500円〈税抜〉
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
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佐久間 裕美子(さくま ゆみこ)
文筆家・塾員