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【執筆ノート】
『レオナルド藤田嗣治 覚書──レオナール・フジタとの散歩』

2021/01/13

  • 藤田 嗣隆(ふじた つぐたか)

    塾員

平成16年、42年間の会社員人生を終え、私は66歳で、かねての念願だった文学部美学美術史学専攻の3年生に編入学した。これは、母方の大叔父レオナール・フジタのことを本格的に調査研究するためには、美学美術史学の基礎的知見を持った方がよいと考えたからである。

「番町ジイジ」と私が幼少時に呼び親しんでいたフジタは、その頃麹町六番町にアトリエを構えていた。そして私が小学校に入学した時、太平洋戦争の激化で画材も欠乏する中、入学祝として、本職の画家が使う55色の木箱入りクレパスを贈ってくれた。このことは私にとって忘れ難い記憶となり、戦後フジタが日本を去ってフランスに没した後、いつしかフジタのことをきちんと調べてみたいと思うようになったのである。

一方、今となってはフジタの謦咳に接し、その人となりや身辺で起こった出来事を知る人々はほとんどいない。それ故、生前のフジタを知る最後の世代として、フジタに関する「覚書」を記録し、後世の研究者に残すことは、私の使命ではないかと思うようになったのである。こうして私が学生に戻り、本格的にフジタの調査研究を始めると、親族等から、思い出話やフジタに関連する日記、手記、書簡、写真等の1次資料が送られてくるようになった。

そして平成28年、フジタ未亡人君代から東京藝術大学大学美術館に遺贈されたフジタの日記、写真等が公開された。それまでに私の手許に集まっていた資料も、美術館遺贈資料を補完するものとして役立った。これらをつむぎ合わせてまとめたのが、この「覚書」である。したがってこの本は、フジタの作品に関する専門的学術書ではない。今までに収集した1次資料にもとづいて、できるかぎり事実に即し、ありのままにフジタの生涯の断片をオムニバス風に記したものである。

今まで語られることのなかったエピソードを通して、一時の成功に安住せず、作画のスタイルの創造的破壊を続けたフジタの生き方が少しでも見えてくればよいと考えている。フジタの作品を好む方々が、フジタと一緒に散歩しながら語り合うような気持ちになって、読んでいただければ幸いである。

『レオナルド藤田嗣治 覚書──レオナール・フジタとの散歩』
藤田 嗣隆
求龍堂
258頁、3,500円〈税抜〉

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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