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【執筆ノート】
『アメリカの政党政治──建国から250年の軌跡』

2020/12/17

  • 岡山 裕(おかやま ひろし)

    慶應義塾大学法学部教授

筆者は今年の3月から、米国のコーネル大学に客員として在籍している。といってもパンデミックのため、渡米直後に州全体がロックダウンに入り、11月初めの今も大学はほとんど利用できていない。そうした中で完成したのが、本書である。

義塾では、米国の現代政治と政治史を講義しているが、政党の解説には気を遣う。というのも、日本での一般的イメージと実態の間に大きなギャップがあるためである。

米国で民主党と共和党が2大政党制を形成しており、現在は両者がリベラルと保守に分かれてイデオロギー的に対立していることはよく知られている。しかし実際の所、各党のまとまりは弱い。党首はおらず、党員制度や恒久的な綱領もない。議会でも党議拘束などはなく、各議員は所属政党の指導部の指示でなく自らの判断で法案への賛否を決める。

2016年のトランプ氏のように、党所属の政治家でなくともその党から選挙に出られる仕組みも、まとまりを弱めている。近年の政治的混乱は、2大政党間の対立だけでなく各党の規律のなさにも原因がある。

しかし、各政党にまとまりがない反面、今日でも大半の有権者は特定の政党を強く支持する。また裁判官や高位の行政官までが実質的な政党所属を持つ等、政党は政治の隅々まで浸透している。そのため、政党を理解せずに米国政治はわからない。とはいえ、何分にも米国の政党は日本等の政党とあまりに大きく違い、新聞等での補足的な解説では説明が行き届かない。本書では通史の形で、政党がなぜ、どのように独特の性格を持つにいたり、どう政治を特徴づけてきたかの説明を試みた。

米国の2020年はパンデミックと大統領選挙に加え、大統領の弾劾裁判や人種差別への抵抗運動の再燃等、政治・社会的分断が一層顕在化する歴史的な年となった。政党はこれら全てと深く関わっている。本稿を書いているのは選挙結果の確定前だが、どんな結果でも、様々な分断がすぐに解消するとは考えにくい。

約250年間を同じ頁数で凝縮して記述したこともあり、本書の試みの成否は読者に判断を仰ぎたい。本書が、苦難の続く米国の行方を考える際の参考になれば幸いである。

『アメリカの政党政治──建国から250年の軌跡』
岡山 裕
中公新書
288頁、880円〈税抜〉

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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