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【執筆ノート】
『SDGs(持続可能な開発目標)』

2020/11/26

  • 蟹江 憲史(かにえ のりちか)

    慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授

今でこそSDGs(持続可能な開発目標)という言葉を耳にすることが増えてきたが、それは極めて最近のことである。数年前までは「SDGsを知っている」というのはごく一部の関心のある人々に限られていた。2017年にSDGsの基本的なことについて新書を書きたい、と考え始めた頃は、まさにそのような状態であった。いくつか新書を手掛ける出版社に打診したところ「SDGsなんて誰も知らない。このテーマの本を書いても売れないのでお断りする」という回答ばかりであった。

そんな中、同僚であり、学生時代から当時の助手の先生として親しんでいた加藤文俊教授に中公新書の編集者、酒井孝博さんを紹介していただいた。酒井さんは、SDGsという新たな仕組みに関心を示してくださり、本書の出版へとつながった。

その後SDGsに対する社会的関心が高まったことから私自身が多忙になり、結局企画から出版まで2年ほどの年月を費やしてしまった。コロナ禍で予定が次々とキャンセルになり、しっかりと机に向かって執筆する時間をとれたことで、ようやく脱稿に至ることができた。

今や「SDGs」をタイトルに含む書物が多数出版され、「SDGsコーナー」を設ける書店もあるほどである。正直なところ、首をひねるような内容を書いている書物も見られる中、「これこそがSDGsの本質だ」ということを示したい一心で書き上げた。

以前、同僚であり大先輩の村井純教授から、彼の『インターネット』と題する新書を出版した時の話を聞いたことがある。インターネットが世に普及し、様々な人がインターネットを語る中での出版につけられたコピーは「周回遅れの先頭ランナー」。私の著書も「目指すところはここだ!」と思った瞬間であった。

SDGsは単なる目標のリストではない。SDGsに代表されるような目標作りから始まるガバナンスは、グローバル・ガバナンスのあり方を大きく変える可能性を持っている。本書を読んでいただくことで、人々のSDGsに対する理解が進むとともに、この課題に早くから目をつけてくださった酒井さんへの恩返しにもなればと思うところである。

『SDGs(持続可能な開発目標)』
蟹江 憲史
中公新書
304頁、920円〈税抜〉

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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