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【執筆ノート】
『裁判員制度の10年──市民参加の意義と展望』

2020/08/17

  • 牧野 茂(編著)(まきの しげる)

    弁護士、裁判員経験者ネットワーク共同代表世話人・塾員

裁判員裁判の醍醐味はプロの裁判官と素人の一般市民が有罪か無罪か、また有罪の場合の量刑を議論する評議の場面にある。この醍醐味を制度開始直前の東京地裁で開催された多数の模擬裁判で堪能した。新制度導入への運用を探るため評議も関係者に公開された。市民団体主催の模擬評議企画でもプロの法曹と市民の評議もガラス張りで体験した。

これらの時は、市民も意見を言えて、多彩な感覚が評議でキラキラ光ってプロも感心させる議論に発展して、市民参加の新制度に大きな期待が持てた。同時に制度開始後は評議は守秘義務によりブラックボックスになる弊害も鋭く予感された。

2009年に裁判員制度はスタートした。その後、裁判員制度の委員会活動と裁判員経験者ネットワークでの定期的な経験者との交流会も10年となった。この間、予感通り、市民参加の評議は市民の多彩な感覚が生かされたが、評議の守秘義務規定により市民の目を評議室に入れても外部に目隠ししているため貴重な市民の視点が全く伝わらず、話して良いとされる限界も曖昧なため裁判員体験は周囲に広まらなかった。

そこで評議での裁判員の活躍を現場の経験者や関係者の生の声で浮き彫りにして、同時に評議の内容が社会に還元されない守秘義務規定緩和の重要性等の課題解決等も議論するため、裁判員経験者ネットワーク等主催の市民目線からの公開シンポを昨年青山学院大学で開催した。

裁判員経験者、元裁判官、弁護人、司法記者によるパネルディスカッションで、裁判員裁判の実態を語り合った。パネリスト間のやりとりや会場からの質問もあり会場は熱気に包まれた。裁判員裁判の評議ではチームとしての議論ができていたこと、裁判員の視点も生かされ、裁判員経験者に深い達成感を与えていたことがやりとりのなかで確認された。

その公開シンポの闊達な議論の内容を軸に研究者、有識者のパネリストの課題への議論や守秘義務緩和共同提言、更に裁判員制度への論考を補完して本書が誕生した。

この本を多数の方々が読まれて、プラス体験としての裁判員体験が広まり身近になり辞退率も改善されることも期待したい。

『裁判員制度の10年──市民参加の意義と展望』
牧野 茂(編著)
日本評論社
176頁、1,700円〈税抜〉

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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