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【執筆ノート】
『小林麻美 第二幕』

2020/06/11

  • 延江 浩(のぶえ ひろし)

    TOKYO FMゼネラルプロデューサー・塾員

パルコや資生堂のCMで話題になり、女が女に憧れるロールモデルとして和製ジェーン・バーキンと言われた小林麻美。1984年には松任谷由実(夫君は塾員の松任谷正隆氏)の作詞・プロデュースによる「雨音はショパンの調べ」がヒットし、歌手としてオリコン1位になるも芸能界から突然消え、その消息は秘密のヴェールに包まれた。一体なぜ──。

それから4半世紀、「伝説のミューズ」小林麻美が雑誌「クウネル」の表紙を飾り、表舞台に戻ってきたのが3年前。彼女は私に、その半生を包み隠さず語ってくれた。

東京五輪、ウッドストック、GS、大学紛争、三島由紀夫の割腹自殺、そして石油ショック、バブル……。私にとって異空間の出来事が連続した60年代から80年代、彼女もまた濃密な季節の中心にいた。10代での道ならぬ恋とサンローラン。そして田邊昭知との秘匿された恋愛と未婚での出産・結婚。彼女の半生を描いていると、ひときわ光を放つ都会の少女、小林稔子(としこ)を、「小林麻美」として世に送り出した表現者たちの姿も見えてきた。

たとえば、パルコのCM「淫靡と退廃」をディレクションした石岡瑛子(えいこ)──。「沼津港でクルーザーが私を待っていたんです。とにかく石岡さんはオーラがありました。照明は煌々と輝き、スタンバイは完璧でした」と麻美は回想する。「超一流と仕事をするということは『魔術』にかかること。石岡さんに『踊って』と言われ、私は踊りました。黒いタキシード姿の男性に後ろから抱かれながら、自分はこういう場所が好きだったんだと気づいた。いま、私は才能が結集している場所にいるのだ、と」。

〈人生は短いのです。夜は長くなりました〉──パルコの広告は、そのコピーに誘われるように人生の意味までも考えさせる、時代を代表する石岡の作品となった。その後NYに渡った石岡は、マイルス・デイヴィス「TUTU」のアルバムジャケットでグラミー賞を受賞する。

ユーミン、石岡瑛子、飯倉「キャンティ」をめぐる人々、夫となる田邊昭知……。それぞれの人生に輝きがあり、知られざる陰翳がある。この本は、若々しく刺激に満ちた東京と生きてきた「伝説の人々の物語」である。

『小林麻美 第二幕』
延江 浩
朝日新聞出版
160頁、1,700円〈税抜〉

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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