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【執筆ノート】
『女性マネージャーの働き方改革2.0──「成長」と「育成」のための処方箋』

2020/02/14

  • 高田 朝子(たかだ あさこ)

    法政大学ビジネススクール/経営大学院イノベーション・マネジメント研究科教授・塾員

私はあまり怒らない。どちらかというと、気が長いほうだと思う。だが不思議なことに「女性管理職に関わる研究をしている」と言うと「怒っている人、怖い人」という先入観で見られることが多い。そのように扱われると「経営学者は本来、クールなんだけどなあ」と困り果てる。

確かに今までの企業組織における女性の扱いを目にすると、気の長い私でも怒りを覚えることが多い。能力を活かす、チャレンジさせるといった当たり前の取り組みが、女性というだけで「どうせ途中で辞めるんでしょう」という統計的差別に晒されてきた事実があるからである。

日本は伝統的に似たような男性たちで形成された「おじさんコミュニティ」が社会の中心で、その守りは強固であった。ところが最近、「一億総活躍」とか、「すべての女性が輝く社会」とか、文字化すると嘘くさいキャッチフレーズを毎日目にするようになった。猛烈なスピードで進む人口減少の中で、女性を戦力にしないと企業や社会のシステムが機能しなくなるというのが理由である。

企業に視点を置くと、今まで組織内の二級市民扱いだった女性たちに目を向け、何とか男性たちと同じトラックに入れようと悪戦苦闘してきたのが、ここ十数年の話である。おじさんコミュニティのやり方を持ち込んでみたけれど、女性たちはうまくのってこない。そもそも出世という伝家の宝刀が女性たちにはあまり効かない。男性たちは彼女たちをどう扱って良いのかわからない。そして企業側が(男性たちが)必死になればなるほど、女性たちは昇進に対してシラけていく。昇進しても多くの場合、旨味がないからである。

企業側と女性側の思惑のギャップを埋めたいと本書を執筆した。教鞭を執る法政大学ビジネススクール、企業をはじめとしたビジネスの最前線にいる多くの人々への調査をもとに、現状分析からインプリケーションまでを示した。この種の本は作者の強い怒りや思いが基盤となることが多い。しかし、本書ではあえてクールに書いている。それは私が学者としての訓練を受けた慶應ビジネススクール(KBS)で叩き込まれた、「心は熱く、頭は冷静に」実学を重んじる姿勢のおかげかもしれない。

『女性マネージャーの働き方改革2.0──「成長」と「育成」のための処方箋』
高田朝子
生産性出版
244頁、1,800円(税抜)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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