【執筆ノート】
『横尾忠則さんへの手紙』
2020/01/08
この本は、わたしが横尾忠則さんについて書いた文章や対談などを集めたものである。
早いものは、アメリカの画家ポール・デイビスとの2人展に寄せた図録のテキスト(2001年)だが、もっとも近いものは、時代小説「眠狂四郎」で一世を風靡した〈柴錬〉こと柴田錬三郎と横尾さんとの奇妙なかかわりにふれた文章(2019年)である。すべて求めに応じて書いたもので、発表媒体やテーマを異にし、原稿枚数も一定ではない。
振りかえってみると、そのつどわたしはこの画家の肖像画を描いていたような気がする。自分でいうのも妙だが、それぞれ寸法は異なるが、描法はまちがいなくわたしのもので、畏まった肖像画というより普段着の画家の姿である。いずれも写実的な手の込んだ油彩画にはせず、ちょっと素描に近いものとなっている。
しかし、横尾さんはいまもなお活火山のごとく噴煙をあげている画家だ。したがって精彩のある生き生きとした表情をしていないといけない――そんな心づもりで、わたしは注文に応じていた。
いささか作品(原稿)がたまったので、ここらあたりで個展でもさせてもらうか、といったようなあんばいで発表の機会(出版)を得たのだが、幸いにも横尾さんの作品を挿図に入れて、視覚的にも愉しめるものとなった。また比較的長い対談があったので、作家自身の考えているところを知ってほしいと思い、活字に起こして収録することにした。そんなわけで、ちょっと気まぐれなかたちの作家論と解してもらえたら嬉しい。
事実、横尾さんはまったく多才な人である。絵を描き、版画やポスターをつくり、ときには小説まで書く。その合間をぬって講演やテレビに出演し、そうかと思うと、自分はやはり画家なのだ――とつよく意識するために、あえて公開制作をみずからに強要したりする。そうした創造的なエネルギーの源が、いったいどこにあるのかを画家の生きかたと併せて尋ねたのが、他でもなくこの本になったといっていい。
書名に「――手紙」と付したのは、画家に宛てた手紙のほかに、手紙の形式を借りて書いたエッセイがいくつかあったからである。
『横尾忠則さんへの手紙』
酒井 忠康
光村図書
160頁、2,000円(税抜)
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
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酒井 忠康(さかい ただやす)
世田谷美術館館長・塾員