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【執筆ノート】
『中世武士の勤務評定──南北朝期の軍事行動と恩賞給付システム』

2019/10/09

  • 松本 一夫(まつもと かずお)

    栃木県立上三川高等学校長・塾員

慶應義塾大学で日本中世史を学んだ私は、卒業後、郷里である栃木県の高校教員となったが、指導教授故高橋正彦先生や同門漆原徹先輩(現武蔵野大学教授)の強い勧めもあって、教員2年目より専門の勉強を再開した。それから18年後、「南北朝・室町前期における東国守護の研究」で母校大学院より史学博士の学位を授与していただいた。そしてその後も下野(しもつけ)を中心とした中世史研究を続けていたが、そうした中で私は、素材となる史料の大半が当時の公式文書であり、それらをもとにした分析結果がはたして本当に歴史の実相ととらえてよいのか、若干の疑問をもつに至った。もちろん、そうした重厚で体系的な歴史研究の重要性を否定しないが、その一方で、むしろそうした史料の断片的な文言の中に、きらりと光る歴史の真実を垣間見ることができるのでは、と思うようになったのである。

中世は戦争の時代であり、特に南北朝期と戦国期は、やや極端に言えば、戦争の中に日常があるような時代だった。通常、合戦についてとりあげる場合は、いつどこで戦われ、両軍の大将は誰で、その結果どちらが勝利したのか、そしてそれがその後の政治情勢にどのような影響を与えたのか、などといった事柄が中心となる。しかし本書では、合戦をする上で欠かせない兵粮(ひょうろう)調達の実情、あるいは合戦の際に用いられた武具や戦闘方法、正規の戦闘員である武士以外のさまざまな立場の人々の実態、陣所や城郭の問題などをとりあげることとした。このように戦争そのものを微視的に検討することは、実は近年、学界でもさかんに行われるようになってきている。それぞれは微細な問題ではあるが、南北朝時代の社会をとらえる上では、こうしたことを考えることは、かえって有効ではないかと思われる。

本書ではまた、それらの問題の前提として、そもそも中世武士たちの軍功がどのような形で評価されたのか、ということに関し、「勤務評定」をキーワードとして、手続きの流れに沿いながら軍勢催促状、着到状、軍忠状、挙状、感状、充行状などの関連文書を紹介しながら解説し、あわせてこのことに関する近年の研究動向についても紹介している。

『中世武士の勤務評定──南北朝期の軍事行動と恩賞給付システム』
松本一夫
戎光祥選書
196頁、1,800円(税抜)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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