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【執筆ノート】
『日韓の断層』

2019/08/26

  • 峯岸 博(みねぎし ひろし)

    日本経済新聞社編集委員兼論説委員・塾員

嫌韓ムードが日本に広がっている。竹島、元慰安婦、元徴用工、レーダー照射──。業を煮やした安倍晋三首相は「国際法の常識に反している」と、韓国への事実上の対抗措置に踏みきった。国交正常化後半世紀にわたって築いた関係がなぜこんなにもろくなってしまったのか。

日本経済新聞社ではほぼ一貫して政治畑を歩んだ。その間、計6年半の韓国駐在で痛感したのは、どんなに努力しても両国には相容れない部分が残る、ということだ。にもかかわらず、自分がかつてそうであったように互いに隣国を知らなすぎるのではないだろうか。

国家間の約束を重んじる日本の常識が文在寅(ムン・ジェイン)政権に通じない。日本人は「韓国人は一体何を考えているのか」と憤る。かたや、多くの韓国人はそれに気づいていない。このズレこそ亀裂が深まる一因である。

ソウル支局長時代に上梓した前著『韓国の憂鬱』では、当時の朴槿恵(パク・クネ)大統領を弾劾・罷免に追いこんだ韓国社会の闇に迫った。それから2年。安倍、文両政権下で日韓の断層が浮き彫りになる。両国の政治、経済、社会を取材した記者として、目の前で起きた歴史の瞬間を体系的に書き残しておきたいと考えた。日本統治や韓国現代史が複雑に絡み合う日韓関係をわかりやすく解き明かそうと試みたのが本書である。自らの実体験や取材を中心に構成することにこだわった。

日韓に共通する世代間ギャップにも切り込んだ。慶應義塾を卒業してから27年。ともにおじさんになった韓国嫌いの学友が苦笑いしながら「娘や妻は韓国にはまっていてね」と話す。韓流を支える女性の裾野は中高生にまで広がる。彼女らに韓国文化・芸能は親しみやすく、共感できる存在だ。今年3月に訪韓した日本人は、月別で国交正常化以降、最多の約37万5000人に達した。

日韓ともに若い世代が相手国や国民に好印象を持っている割合が他の世代よりも高い。相手指導者への反発を増幅させ、国民まで巻きこむのは避けたい。日本人を驚かせる文政権の言動は一過性のものではない。ならばどう韓国と向き合っていけばよいのか。それを知るための一助になれば本望である。

『日韓の断層』
峯岸 博
日本経済新聞出版社
238頁、850円(税抜)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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