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【執筆ノート】
『根っこと翼──皇后美智子さまという存在の輝き』

2019/08/08

  • 末盛 千枝子(すえもり ちえこ)

    絵本作家・塾員

実は不思議なことに、私は20代の頃に初めて美智子様(現上皇后)にお会いする機会を得た。ほんの一瞬のことだったのに、その時のことを20年後にお会いした時に覚えていてくださり、「あの時、大磯でお会いしましたね」と言ってくださった。大変に驚き、感動したことが忘れられない。

それから、美智子様の本を4冊も出版させていただくことになり、さまざまなやり取りを通して、緊張しながらも嬉しく楽しい時間を共有させていただいた。その間に経験したさまざまな思いを私だけのものにしておくのは、なんとももったいないと思い始めた。

その思いがあったので、編集者からの熱心な勧めがあった時に美智子様にご相談すると、「他の人とは違う見方で私を見ていてくれると思うからいいのではないかしら」と言っていただいた。それで、まず新潮社の「波」という冊子に連載の形で書かせていただくことにして、2018年の1月号から書き始めた。1回ごとにお目にかけたのだけれど、その度に、様々なアドバイスをいただき、その記憶力の素晴らしさ、確かさには、本当に驚き、圧倒された。

友人のお葬式においでになった時のこと、また、ご結婚に当たって尽力された小泉信三さんのこと、お子様たちのこと、上皇陛下に対しての思い。もちろん子供の本のこと。子供時代の読書について書かれた『橋をかける』のことは、この種のもので右に出るものはないのではないかと今でも思う。もともとは、インドのニューデリーで開催されたIBBY(国際児童図書評議会)世界大会での基調講演として準備されたスピーチだったが、インドが核実験をしたことによって、皇后陛下に行っていただくわけにはいかないと政府が直前になって決定し、結局は、ビデオによるご講演となった。

しかしそのために、却ってビデオに収録されたものが、日本国内でもNHKによって放送され、大変な高視聴率で、それをそのまま『橋をかける』という本にさせていただいた。本書のタイトル、『根っこと翼』は、『橋をかける』を作る時に、どちらにしようかとご一緒に迷った思い出のタイトルで、まことに懐かしい。

『根っこと翼──皇后美智子さまという存在の輝き』
末盛 千枝子
新潮社
208頁、1,300円(税抜)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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