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【執筆ノート】
『動物園から未来を変える──ニューヨーク・ブロンクス動物園の展示デザイン』

2019/05/09

  • 本田 公夫(共著)(ほんだ きみお)

    野生生物保全協会(WCS)展示グラフィックアーツ部門スタジオマネジャー・塾員

動物オタク、動物園オタクであると同時に、少年時代から「動物園の存在が正当化できる条件は何か」などと考えながら育った私は相当な変わり者に違いない。理系の成績が悪く獣医学や畜産学を学ぶつもりはそもそもなかった。美術や写真、グラフィックデザインにも関心が強かったが、それで身を立てようという決意も度胸もなく、結果受かった大学は東京外語大のドイツ語学科と慶應の商学部。「潰しがきく」というジジくさい理由で慶應を選んだのだった。

本の虫でもある私は出版にも広告にもつながる印刷会社に就職、ニューヨーク勤務を希望し、著名な写真家やグラフィックデザイナーなどと仕事をして「悪い影響」を受けたかもしれない。ブロンクス動物園の展示に衝撃を受け、曲折あって展示部門に職を得た。印刷や著作権などの知識と経験を活かすことができた。さらに動物園・水族館の教育関係者の集まりに出ると、20年前に三田の講義で聞いた「マズローの欲求段階説」のようなコンセプトの数々が援用されていた。

考えてみれば、私のやっていることは、動物園の展示体験を媒体とした、野生生物保護や動物福祉のマーケティングに他ならない(ちなみに日本の法律では「福祉」という用語は人間以外の生物には使わないことになっているそうだ)。そんな私が川端裕人氏とタッグを組んで書いた本書は、動物の本でもなければ必ずしもデザインの本でもない。私たちがブロンクス動物園を見て回りながら、動物園という施設が社会で果たしうる機能、その中で展示が受け持つ役割とその役割を実現させるためのプリンシプル、そうしたことを日本の実情と対比しながら語るという構成だ。写真を多用し、動物園のことを知らない人でも容易にわかるよう心がけた。その分、公共性の高い事業の運営システムはどうあるべきか、という問いの核心を暴くに至っていないが、日本のシステムを知る人が読めば、問題点は明らかであろう。

動物園・水族館に興味のある方々だけでなく、ミュージアムとその運営に関心のある方々、指定管理者制度や独立行政法人制度などに関心を持つ方々にはぜひご一読いただきたいと願っている。

『動物園から未来を変える──ニューヨーク・ブロンクス動物園の展示デザイン』
本田 公夫、川端 裕人
亜紀書房
280頁、2,000円(税抜)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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