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【執筆ノート】
『内閣総理大臣の沖縄問題』

2019/04/10

  • 塩田 潮(しおた うしお)

    ノンフィクション作家・塾員

2月24日、沖縄県で県民投票が実施され、「辺野古移設反対」が全有効投票数の72%を超えた。だが、安倍晋三首相は結果に左右されずに移設実現に突き進む構えだ。

米軍普天間飛行場移設問題は橋本龍太郎内閣時代の1996年4月の日米返還合意がスタートだったが、23年後の今も未解決だ。なぜこんなに長く迷走が続くのだろう、と2015年10月に『サンデー毎日』編集長との雑談で口にしたら、「調べてレポートを」とお誘いいただいた。それが本書刊行の発端だった。

とはいえ、沖縄研究の専門家ではなく、過去に連続して調査や取材を行った経験もなかった。「沖縄」の書き手として力不足という自覚はあったが、長年、中央の政治を観察してきて、戦後の歴代政権が沖縄問題とどう向き合ってきたか、そこに興味を抱いた。政権争奪など権力闘争の裏側で、沖縄問題が「政争の具」とされる場面も少なくなかったが、その点を踏まえ、「内閣総理大臣の沖縄問題」という視点から政権の軌跡を追い、沖縄問題を通して政治の虚実を解析してみたいと思った。

私の沖縄体験は、ノンフィクションの書き手として一本立ちする前、月刊『文藝春秋』記者時代の1981年6月に、琉球政府の最後の行政主席で返還後の初代県知事だった屋良朝苗さんを那覇市の自宅にお訪ねしてインタビューしたのが最初だった。だが、それ以前に1度だけ、沖縄に関心を持ったことがあった。

私は1966年から70年まで法学部政治学科に在籍し、中村菊男教授のゼミで学んだ。当時は沖縄の本土復帰前で、返還実現を目指す佐藤栄作首相は、返還後の基地のあり方について、最終的に「核抜き本土並み」を決断する。その際、諮問機関の沖縄問題等懇談会に設置された沖縄基地問題研究会という14人の有識者の会が先導役を果たした。中村先生はそのメンバーの1人だった。

それから50年、66冊目の本で初めて「沖縄」に取り組んだ。大学で政治学を学んだことが執筆・言論活動の原点と思っているが、沖縄返還という現実政治にかかわる仕事に参加し、その一翼を担った中村先生の業績の記憶が、今回、この本の執筆を後押ししたのは間違いない。

『内閣総理大臣の沖縄問題』
塩田 潮
平凡社新書
312頁、900円(税抜)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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