【執筆ノート】
『日本画の歴史 近代篇・現代篇』
2019/03/11
もう何年か前のことですが、当時の平塚市美術館の副館長(事務方)に一般市民のための館長講座をやってほしいと提案されました。彼はとにかく美術館が良くなるために尽力する人で、それも館長の務めかなーと思いスタートしたのです。
隔月ごと年6回のコースで、近代篇を終え、翌年同じく隔月ごと年6回の現代篇の講座を始めました。対象は一般市民約25名、当然ながら中高年がほとんどで、女性が多い中、ご夫婦で参加という方もいらっしゃいました。中高年の生徒さんは大人しいが熱心。当然こちらもやっつけ仕事というわけにはいかず、講座の前には結構時間をかけて準備したものです。
もう3周くらいになると、そろそろ慣れてくるかと思ったのですが、相変わらず、事前準備には追われていました。いろいろな方がいろいろな論文や本を出されるので、そういうものを読んでいると、当然講座にとり入れなくてはならないものも出てくるのです。そうやって少しずつふくらませていったのですが、あくまでも一般市民に分かりやすく話すというスタンスだけは守ってきました。
そんな折、以前から知っていた中央公論の白戸さんから本を……、というお話を頂きました。有難いことと思いお引き受けしたのですが、実際に本を出すとなると足りない部分が多く、講座ではとりあげなかった文人画と浮世絵も追加することにしました。現代篇では女性画家についても追加しました。現代篇で女性画家をとりあげたのは、現代にはいっても女性画家が不当に扱われてきたと思い、義憤にかられるところが多々あったからです。短い文章ですが、とにかく追加できたことに喜んでいます。
ところで、常々日本の近代化とはヨーロッパ化にすぎないと思っていました。もっと日本人の考えた独自の近代化があって当然と思っていました。そして最近になってやっと日本人が自信をとりもどし、日本人の本心からの現代日本画を生み出しつつあると思いました。そこで現代篇の第5章で日本画(近代に生まれた言葉です)から日本の絵画へということを提案してみたのです。
『日本画の歴史 近代篇』
『日本画の歴史 現代篇』
草薙 奈津子
中公新書
近代篇:240頁、現代篇:208頁、各920円(税抜)
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
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草薙 奈津子(くさなぎ なつこ)
平塚市美術館館長・塾員