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【執筆ノート】
『横田喜三郎 1896─1993──現実主義的平和論の軌跡』

2019/02/07

  • 片桐 庸夫(かたぎり のぶお)

    群馬県立女子大学名誉教授・塾員

半世紀ほど前の話であるが、塾大学院法学研究科修士課程の学生であった私は、僭越ながら石川忠雄先生に研究者になる人のタイプについて尋ねたことがある。その時の石川先生のお話を今も鮮明に記憶している。

それは次のような内容であった。これからの研究者には3つのタイプがあってよい。1つ目は、頭の切れるタイプ。2つ目は、マスメディアを通じて世論を啓発するタイプ。3つ目は、一つのテーマを3年以上かけて地道に研究するタイプ。従って、君も研究者になれる。

石川先生は、私がどのタイプに属するかをおっしゃらなかったが、私は迷うことなく自分を3番目のタイプと受け止めた。以後、故神谷不二先生、池井優先生の指導のもと「継続は力なり」を肝に銘じつつ、地道に研究生活を送ってきた。

私の学位論文『太平洋問題調査会の研究』(慶應義塾大学出版会、2003年、吉田茂賞)、『民間交流のパイオニア 渋沢栄一の国民外交』(藤原書店、2013年)、昨年上梓した『横田喜三郎 1896─1993──現実主義的平和論の軌跡』は、私にとっての民間交流3部作である。

太平洋問題調査会は、1925年に設立され、国際連盟、汎米会議とともに世界3大会議の1つに位置付けられた環太平洋地域の国際民間交流組織であった。その日本支部の理事長が渋沢であり、会員の横田は自由主義的平和主義者の立場から1931年の満州事変以降、軍部批判を貫いた稀有な存在である。

しかし、不思議なことに戦後の横田は厳しい変節批判に晒されてきた。

戦時中に命を懸けて軍部に挑んだ人が自由の回復した戦後になってから変節することがあるのだろうか。横田の価値観を考察してみたい。それが『横田喜三郎』執筆の動機である。

結果として、本書は今日の日本を考える上で示唆的な内容となった。理由は、例えば新元号に代わる今、天皇について再考する。政府が憲法改正を目論む今、第9条や日本の安全保障について再考する。右傾化する日本における思想・言論の問題について再考する。その際に横田の考え方や主張が示唆に富むからである。

そんな意味からも、本書をご一読願えれば有り難く思います。

『横田喜三郎 1896─1993──現実主義的平和論の軌跡』
片桐 庸夫(著)
藤原書店
272頁、3,200円(税抜)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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