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【執筆ノート】
『アフター・ヨーロッパ──ポピュリズムという妖怪にどう向きあうか』

2019/01/24

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  • イワン・クラステフ著

  • 庄司 克宏(監訳)(しょうじ かつひろ)

    慶應義塾大学大学院法務研究科教授

EUはあまりにも進化しすぎて「ガラパゴス化」している。日本の携帯電話事業の失敗を引き合いに出しながらそのように指摘する本書は、東欧革命とソ連解体を体験したブルガリア知識人であるイワン・クラステフによる『After Europe』を原書とする。それを3名の研究者とともに邦訳した。原書に出会ったきっかけは、『欧州ポピュリズム──EU分断は避けられるか』(ちくま新書)を執筆する際に参考文献として使用したことであった。クラステフ氏はかつてのハプスブルク帝国の崩壊を想起しながら、ユーロ危機、移民・難民問題、ブレグジットと立て続けに危機に直面したEUが「目的論的な魅力」を失った「アフター・ヨーロッパ」の状況に陥っている中で果たして分裂を回避できるのかどうかを、深い洞察力で論じている。

本書では、とくに2015年欧州難民危機が「移民革命」と位置づけられている。EU各国の有権者たちは、移民・難民が大量流入して祖国を奪い取り、自分たちの生活様式を脅かしているという恐怖を覚えた。「移民革命」に憤った極右ポピュリスト政党は各国で「反革命」に乗り出した。EU28カ国中9カ国で選挙を通じた政権参加や閣外協力により、「反革命」は成功しつつある。さらに2019年5月の欧州議会選挙では、定数705議席のうちポピュリスト政党が全体の4分の1以上を占めると予想され、EUの主要機関にも勢力を浸透させつつある。そのように劣勢な中で、リベラルな価値観に基づくEUはどのように対応すべきなのか。EUは存続する能力を示す必要がある。敵を打倒しようとするのではなく、一部の政策を取り込みつつ、疲弊させるべきである。これが本書のメッセージである。

これまで、複数の国家が国境を越えてどのように、どこまで共生できるのかと問い、EUを事例としてルール、制度、政策や国際関係について研究してきた。還暦が近くなってからは、学術論文や専門書だけでなく、これまでの知見を活かして一般向けの本を毎年1冊刊行することを目標としている。本書のような海外の優れた図書を邦訳することもその一環である。死を迎える直前まで研究と執筆を続けたいと思う。

『アフター・ヨーロッパ──ポピュリズムという妖怪にどう向きあうか』
イワン・クラステフ著、庄司 克宏(監訳)
岩波書店
144頁、1,900円(税抜)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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