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【執筆ノート】
『村井邦彦のLA日記』

2019/01/18

  • 村井 邦彦(むらい くにひこ)

    作曲家、プロデューサー・塾員

作曲家、プロデューサーとして、僕は1969年以降、パリ、ロンドン、ニューヨーク、ロサンゼルス(LA)をぐるぐると飛び回る生活を送ってきた。

1980年代後半にLAでB・B・キング、フリートウッド・マックなどの楽曲を扱う音楽出版社を設立し、1992年には家族とともにLAに引っ越した。それ以来26年間、LAに住み続けている。

引っ越した当時、長男は9歳、長女は7歳だった。子どもたちは、センター・フォー・アーリー・エデュケーションという、「ハリウッドの幼稚舎」と僕が呼んでいる有名小学校に途中入学することができた。苦虫を嚙み潰したような顔をしたジャック・ニコルソンが、毎朝、車で子どもを校門の前に降ろすとき、当時パラマウント映画の副会長だったロブ・フリードマンが、ドアを開ける係をボランティアでやっていた。何ともハリウッドらしい小学校だった。

僕が入会したゴルフ倶楽部には有名なバンド・リーダー、レス・ブラウンがいて、ジャズの話に花が咲いた。作曲家のジョン・ウィリアムスも同じ頃に会員になり、ロックスターのスティーヴン・スティルスも会員になりたいというので、僕が推薦人になって倶楽部に入った。

そのように音楽をやる僕のような人間には、LAは楽しいところだ。1920年代から映画がトーキーになり、音楽が必要とされ、世界中から音楽家が集まってきた。また1960~70年代には世界のロックやポップ音楽の中心になった。18~19世紀の音楽の都ウィーンのような街だ。

しかし、LAにはその他にもいろいろな側面があって、「LAって、一体どういう都会なんだろう」といつも考えている。破壊される伝統、新しくできる伝統、異人種、異文化が混在する不思議な都市LA。だれもその深淵をうかがい知ることはできない。

それで、知りうるかぎりのことを同人誌『月刊てりとりぃ』に2011年から2018年まで毎月書いてきた。それをまとめたのが本書である。読んで楽しんでいただければ、とてもうれしい。

『村井邦彦のLA日記』
村井 邦彦(著)
リットーミュージック
344頁、2,200円(税抜)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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